エステ契約におけるクーリングオフ

 エステティック経営において、クーリングオフは知っておかなければならない法律制度の一つです。エステ事業者様でクーリングオフという言葉を聞いたことがない人はほとんどいないと思います。ただ、私が弁護士としてエステサロンのオーナー様から法律相談にのっていても、クーリングオフの具体的内容までしっかり理解されている方は案外多くはありません。
 お客様からクーリングオフを主張された場合でも焦らず対応するため、今回はクーリングオフ制度について、その要件や注意すべきポイントについて詳しく説明していきます。

1 クーリングオフの要件

 まずは、クーリングオフを主張できる要件から見ていきましょう

  1. ①契約期間が1カ月超で、契約金額が5万円超の契約
  2. ②書面交付から8日間
  3. ③お客様が書面でクーリングオフを主張すること

1-1 ①契約期間が1カ月超で、契約金額が5万円超の契約

 エステ契約において、全ての契約がクーリングオフできるわけではありません。
 クーリングオフができるのは、契約期間が1カ月を超えていて、契約金額が5万円を超える契約で、いわゆる「特定継続的役務」と呼ばれる契約のみです(特定継続的役務の詳しい説明は、「エステサロン経営者が知っておくべき特定商取引法のルール」 を参照して下さい)。

1-2 ②書面交付から8日間

 クーリングオフ期間は、契約書を交付した日を含めて8日間になります。
 この8日間とは、例えば、4月1日に契約して書面を交付した場合は、翌週の4月8日が最終期限日になります。この8日間以内に、お客様がクーリングオフの主張をした書面を発送すれば条件を満たすことになります。このため、その書面が8日を過ぎた4月9日でもクーリングオフは有効になります。

 また、うちの事務所に相談に来られる方で、たまに契約書面を交付していない事業者様や、書面を交付していたとしてもその書面にクーリングオフのことが記載されていないケースがあります。このような書面不備の場合、8日間がスタートしていないので、お客様としてはその後もずっとクーリングオフすることができてしまいます。
契約時の書面交付は、クーリングオフの起算日にもなりますので、うちの書面は大丈夫かなと思った事業者様はすぐにもう一度書面を交付しているか、書面の内容は問題ないか確認して下さい。
 

1-3 ③お客様が書面でクーリングオフを主張すること

 クーリングオフを定めた特定商取引法では、クーリングオフの要件として書面で主張することと記載しています。
ただ、お客様はクーリングオフの知識を有している方ばかりではなく、電話でクーリングオフを述べてくる方もいます。また、メールやお問い合わせフォームでクーリングオフを記載してくる例もあります。
書面以外の方法によるクーリングオフについては、有効性について争いがある状況で裁判でも有効と判断したものや無効と判断したものに分かれています。
このような場合には、後々の紛争を防止する意味で、サロン店側としてはお客様に対しては書面でクーリングオフの主張をするようにご案内するようにして下さい。
 

2 クーリングオフを主張された場合の効果

 クーリングオフの場合の効果は、契約解除されるだけでなく、化粧水や美顔器などの関連商品にも及びます。一つずつ確認していきましょう。

2-1 契約解除

 まず、クーリングオフの基本的効果としてすでに締結した契約を解除することができます。お客様からお金を受け取っていた場合には返金しなければなりません。

 また、この契約解除には理由を一切問いません。いくらサロン店側が奨めなくて消費者が進んで契約した場合であっても、クーリングオフを主張すれば無条件で契約を解除することができます。
 サロン店では、クーリングオフしたお客様に事情を聞かせて欲しいと詳しく理由を問い詰めてしまう方がいます。せっかく契約したにもかかわらずクーリングオフされてしまったのですから気持ちはわかりますが、あまりにしつこいとクーリングオフ妨害といって処分の対象にもなりかねません。あくまでお客様に「差し支えない範囲でお聞かせ下さい」と丁寧に聞く程度にとどめて、深入りは避けるようにして下さい。

2-2 関連商品も同じく解除

 クーリングオフの対象は、施術の契約だけでなく、施術の契約に併せて購入した関連商品も一緒にクーリングオフの対象となります。
施術の契約と一緒に解除できる関連商品は、エステ施術のために購入する必要があるもので、下記の商品になります。

  1. ・健康食品
  2. ・化粧品、石けん(医薬品を除く)、浴用剤
  3. ・下着
  4. ・美顔器

 このような関連商品は、施術の際の契約書に関連商品として記載する必要があります。 ただ、上記の商品の内、「健康食品と化粧品、石けん(医薬品を除く)、浴用剤」については、自分の意思で消耗品を開封したり使用したりした場合はクーリングオフの適用から外れることになります。

 なお、いわゆる「推奨品」と呼ばれるようなエステのサービス契約とは直接関係のなく、購入しなくてもコースを利用できる商品については、クーリングオフの対象とはなりません。ただし、クーリングオフの対象にしないために本当は必要なのに推奨商品とした場合は、関連商品としてクーリングオフの対象になると判断される可能性もあるので注意が必要です。

2-3 商品の引取費用は、サロン店側の負担

 関連商品をクーリングオフで返品する場合、その引取費用もサロン店側の負担になります。
 商品を送り返して下さいというだけでなく、その返送費用もお客様から請求された場合にはサロン店は応じる必要があります。

2-4 違約金の請求はできない

クーリングオフを主張された場合、違約金などの請求は一切できません。
 過去の相談者で「うちでは、クーリングオフされた場合でも違約金を取るようにしている。契約書にもしっかりとそのことを記載している」と話されたエステサロンのオーナー様がいました。残念ですが、いくら契約書に記載してもその約束は有効ではなく、違約金を請求することはできません。

2-5 既に行った施術代金も請求不可

 クーリングオフは、書面交付日から8日間以内ですが、仮にその期間内に施術を行ったとしても、その施術の費用も請求することができなくなってしまいます。
それなら営業経費や人件費が無駄になってしまって店側は損をするだけじゃないか、と思われる方も多いのではないでしょうか。ただ、残念ながらこれも法律の制度でありますし、どうしても避けたいのであれば、最初の予約日は契約日から8日経過後にするなどの工夫が求められます。

3 クーリングオフを妨害した場合

 事業者はクーリングオフされてしまうと、せっかくの契約が解除されてしまうので、消費者にクーリングオフをされないような行動を取ってしまう例が後を絶ちませんでした。このため、特定商取引法では、事業者側が消費者のクーリングオフの主張を妨害したときの効果も記載しています。

3-1 クーリングオフ妨害とは

例えば、

     

  1. ・今回の契約は値引きしたからクーリングオフはできない
  2.  

  3. ・すでに施術したからもうクーリングオフはできない
  4.  

  5. ・今は担当者が不在なので、対応できない

などと説明するケースです。

3-2 クーリングオフ妨害の場合の効果

 このようなクーリングオフを妨害するような行動を取ってしまった場合、消費者はその誤解が解かれない限り、その後もずっとクーリングオフできることになってしまいます。
 また、クーリングオフ妨害の態様があまりにひどい場合、国や都道府県から改善命令といった行政処分が下される場合も有ります。

3-3 クーリングオフ妨害をしてしまった場合の対処方

 サロン店側としては、お客様に改めてクーリングオフを説明して書面を交付する必要があります。この書面を交付すれば、8日間の期間がスタートするので8日経過後はクーリングオフされる心配はなくなります。

4 クレジット契約について

 長期間の契約の場合、クレジット契約を締結することが多いと思います。
 このようなクレジット契約を結ぶ場合、お客様は、サロン店とエステ契約をするだけでなく、クレジット会社と立替払契約(エステ代金をクレジット会社にいったん立替払いしてもらい、お客様は立替代金を分割して支払う契約)をしていることになります。
 クーリングオフの場合、お客様はサロン店に主張する場合も有れば、クレジット会社に主張することもでき(両方主張することも可能)、いずれの場合でもサロン店としては返金しなければなりません。

5 まとめ

 クーリングオフは全ての契約では無いものの、無条件にお客様に解除を認める制度であり、関連商品も返品対象となっています。また、期間制限はあるものの書面交付が要件となっていたり、クーリングオフ妨害と判断されると長期間クーリングオフを主張されるおそれがあります。このように、エステサロン事業者にとっては厳しい制度であり、守るべき要件も厳格になっています。

 私の所に相談に来られるエステサロンのオーナー様達もお客様のことを常に考えて、日々サービス向上に努力されている方がほとんどでして、中にはクーリングオフといいながらクレームに近いお客様がいることも否定はできません。
 ただ、クーリングオフはお客様の権利でもあります。このような法律の制度が定められたのにはこれまでエステティック業界が様々な消費者被害を生んでしまったことの結果でもあります。クーリングオフを主張された場合であっても、法律に則り誠実に対応する姿勢が何より求められます。
 クーリングオフされてしまったとしても、何が原因であったのか、説明が足りなかったのかなどと考え、今後のサービス向上にも生かしてほしいです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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