エステサロン経営者が知っておくべき特定商取引法のルール

 エステティック事業においては、様々な法律が絡んできますが、中でも特に知っておいてもらいたい法律が特定商取引法になります。
 この特定商取引法は、「クーリングオフ」や「途中解約」のルールを定めたもので、エステティック事業者の方も名前を聞いたことがある人は多いと思います。
 今回は、エステティック業を経営するにあたり、是非とも知っておいてもらいたい特定商取引法を美容事業に特化した弁護士が解説していきます。

1 特定商取引法とは

 まずは、特定商取引法がどういった法律なのかざっと見ていきましょう。

1-1 特定商取引法とはどんな法律?

 特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、お客様である消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
 具体的には、訪問販売や通信販売、キャッチセールスといった消費者トラブルを生じやすい取引の類型を対象にして規制しています。規制の内容は、最近広く知られるようになったクーリングオフが代表的なものになります。

1-2 エステティック業と特定商取引法

 エステティック業界は1980年代頃より急激に需要が拡大して、現在では一般消費者に広く認知される業界となっています。ただ、急速な発展に伴い、様々な消費者トラブルが起きてきたのも事実であり、2000年前後には全国の消費者生活センターに対する苦情申出件数が1万件を超えるまでに至りました。
 このため、消費者の利益を守る特定商取引法において、エステティック業が指定業種となり、その営業に関して規制されることになりました。

1-3 エステティック事業者の方が見るべきポイント

 この特定商取引法で規制する対象の中でも、特にエステティック事業者の方に注意してもらいたいのが、「特定継続的役務提供」という取引類型です。
 この「特定継続的役務提供」とは、ざっくりというと「エステコース20回 30万円」など継続的に長期間なサービスを提供する取引のことを指します。
このような取引は、金額も高いものになるうえ、契約時の不十分な説明や途中解約といったトラブルが多く生じてきていたため、特定商取引法による規制対象となっています。

2 エステティック業における「特定継続的役務提供」とは

 上で見たようにエステティックは、特定商取引法の規制対象となっていますが、エステティックの業務すべてが特定商取引法の規制対象となっているわけではありません。
 規制対象となる「特定継続的役務提供」は、以下の場合に限られます。

  1. ①サービス提供者が事業者であること
  2. ②国で指定されているサービス内容であること
  3. ③契約期間と金額が一定以上であること

以下、詳しく見ていきます。

2-1 ①サービス提供者が事業者であること

 まず、サービス提供者が事業者であることが必要です。この事業者とは、営利の意思をもって、反復継続して取引を行う方が該当します。法人だけに限らず、個人事業主の方も当てはまります。
 このため、事業としてエステティックを経営されている方はほぼ全員該当することになります。

2-2 ②国で指定されているサービス内容であること

 特定商取引法においては、「特定継続的役務提供」として次の業務を指しています。

人の皮膚を清潔にしもしくは美化し、体型を整え、または体重を減ずるための施術を行うこと

 これは、美顔、脱毛、送信、全身美容などいわゆるエステティック業全般を指すものと考えられます。
 このため、この要件もエステティック事業者ほぼ全員に該当することになります。

 なお、豆知識ですが、これまで美容整形分野は特定商取引法の対象となっていなかったのですが、平成28年に特定商取引法が改正され、現在は美容医療も適用対象に含まれることになりました。

2-3 ③契約期間と金額が一定以上であること

 エステティックにおいて、この「特定継続的役務提供」にあたる契約内容は、

  1. ⅰ 期間が1ヶ月を超え、
  2. ⅱ 金額が5万円を超える

契約が対象となります。
 この要件が、お客様に提供するサービス内容につき特定商取引法の規制対象となるかどうかの判断に一番重要になります

例えば、

  1. ●契約期間は3か月、金額は8万円 → 〇適用対象となる
  2. ●契約期間は2ヶ月、金額は3万円 → ×適用対象外
  3. ●契約期間は1か月、金額は6万円 → ×適用対象外

となります。

 契約期間が1か月かどうかは、契約書の記載だけではなく実質的に判断されますので注意してください。
 例えば、1か月ごとに契約を更新する場合であっても、最初にオイル半年分を売却していたなど1か月以上の契約が前提となっていた場合には、契約期間が1か月を超えると判断される可能性があります。

 また、金額は、入会金、関連商品の代金、消費税なども含めて、その契約にあたり支払う金額の総額と決められています。前払いや後払いなど支払方法は関係ありません。

2-4 適用除外

 上で見たように、エステティックにおいては特定商取引法の対象となる範囲が定められていますが、下記の場合には例外的に適用除外となります。

〇事業者間取引の場合

 事業者間取引の場合には、特定商取引法の規制対象から外れます。ただ、エステティックにおいては、お客様は一般消費者の方がほとんどですので、あまり想定はされないかとは思います。

〇事業者がその従業員に対して行った販売または役務の提供の場合

 いわゆる社内割引などで、従業員に行った場合が適用除外となります。なお、従業員の紹介でお客様になった人には、適用されないので注意してください。

3 契約前に規制される内容

 上で見たように、お客様に提供するサービスが「特定継続的役務提供」となる場合、特定商取引法の規制対象となります。規制の内容には、契約前に規制される内容と、契約後に消費者が主張できるルールがあります。
 まずは、契約前に規制される内容から見ていきましょう。

3-1 書面の交付(法第42条)

「特定継続的役務提供」にあたるエステティックサービスにおいては、契約の前に「概要書面」を、契約を締結した後に「契約書面」をそれぞれ交付する必要があります。

3-2 誇大広告などの禁止(法第43条)

 特定商取引法では、エステティックの広告の際、サービスの内容などについて、「著しく事実に相違する表示」「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。
 このエステと広告の規制については、以前の記事「エステティックの広告に関する規制(景品表示法、薬事法等)」
に詳細を記載していますので、参考にしてください。

3-3 禁止行為(法第44条)

 契約の勧誘の際には、以下のような不当な行為を禁止されます

  1. 〇契約の締結について勧誘を行う際、または締結後、その解除を妨げるために、事実と違うことを告げること
  2. 〇契約の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
  3. 〇契約の締結について勧誘を行う際、または締結後、その解除を妨げるために、相手を威迫して困惑させること

 事業者が契約の締結について勧誘を行う際、上記の行為をしたことにより、消費者が誤認して契約を締結したときには、その意思表示を取り消すことができるので注意が必要です。

3-4 書類の閲覧など(法第45条)

 エステティックのサービス契約において、「契約期間は3か月、金額は30万円」などとする場合、お客様が将来受ける予定のサービスの代金を事前に預かる形態になります。以前、サロンが倒産してしまい、お客様がサービス提供を受けられずお金も戻ってこないというケースが多発しました。
 このため、特定商取引法の規制として、エステティック事業者は、お客様から現金払いや口座引落しによって契約代金を受領した場合、お客様が事業者の財務内容などについて確認できるようにする必要があります。
具体的には、

  1. 〇業務および財産の状況を記載した書類(貸借対照表、損益計算書など)を用意しておくこと
  2. 〇上記書類を、消費者の求めに応じて、閲覧できるようにしておくこと

が義務づけられています。

 なお、書類の閲覧については、上で説明したように、現金払いや口座引落しによって契約代金を受領した場合に限られ、クレジット契約の場合は含まれません。

3-5 上記規制に違反した場合

 上記の行政規制に違反した事業者は、業務改善指示や業務停止命令、業務禁止命令などの行政処分のほか、罰則の対象となりますので注意が必要です。

4 契約後に消費者が主張できるルール

 次に、契約後に消費者が主張できるルールを見ていきましょう。主なものとして、クーリングオフと中途解約になります。

4-1 契約の解除(クーリング・オフ制度)(法第48条)

「特定継続的役務提供」にあたるエステティックサービスにおいては、消費者が契約をした場合でも、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日間以内であれば、消費者は事業者に対して、書面により契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます。

4-2 中途解約(法第49条)

 消費者は、クーリング・オフ期間の経過後においても、将来に向かって特定継続的役務提供など契約を解除(中途解約)することができます。
 その際に、サロンが消費者に対して違約金など請求することはできるのですが、請求金額の上限は、2万円または契約残額の10%のいずれか低い方と規制されています。
サロンが、すでに提供したサービスの対価と違約金以上の額を受け取っている場合には、お客様に残額を返還しなければなりません。

5 まとめ

 以上が、エステティック業に関係する特定商取引法の概要になります。

まとめますと、次のようになります。

  1. ●サロンを経営するエステティック事業者がお客様との間で、期間が1ヶ月を超え、金額が5万円を超える契約を締結する場合
     ⇒特定商取引法の規制対象となる。
  2. ●特定商取引法の規制としては、お客様に書面を交付する必要があり、違反すると行政処罰を受ける恐れがある。
     また、クーリングオフや中途解約など、契約後にお客様が主張できるルールも定められている。

 特定商取引法の規制は、一見するとエステティック事業者に厳しい内容となっているようにも思えます。ただ、特定商取引法の規制に違反した場合、行政処分でサロン名などが公表されてしまうと、イメージが悪化し経営に重大な影響が及びます。
 過去にも、行政処分を受けて数年後に倒産してしまったサロンがいくつもあります。

 また、特定商取引法で定められている、しっかりとした書面の作成、適切な広告、誠実な返金対応などを行うことにより、お客様からの信頼度が上がりサロンにとって優良な顧客となってくれることも期待できます。
 特定商取引法の内容をしっかりと理解して、適切なサロン経営のために生かしていってください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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