スタッフがインフルエンザになった場合、会社は出勤停止に出来るのか

毎年、正月過ぎに増えてくるのが、季節性インフルエンザの流行です。
インフルエンザにかかってしまった場合、高熱が出て会社どころではないということもありますが、最近は他の人にうつすのを防止するため会社を数日間休ませるという運用が定着してきてはいます。

ただ、インフルエンザにかかっても治ったからすぐに出勤したいという人がいた場合、会社としては出勤停止にすることが出来るのでしょうか。また、この場合の給料はどうなるのでしょうか。

今回は、インフルエンザにかかってしまったスタッフに対する会社の対応の注意点を、弁護士目線で解説していきます。

1 インフルエンザの会社の初動対応

まず、スタッフからインフルエンザにかかったかもしれないと連絡があった場合における会社の初動対応について見ていきましょう。

1-1 病院でインフルエンザの検査を受けてもらう

インフルエンザは、悪寒や高熱、全身の痛みなどが初期症状と言われています。インフルエンザが流行り出す正月明け頃からは、スタッフがこのような症状を訴えたら、普通の風邪かどうか区別するため、とりあえず病院を受診してインフルエンザの検査を受けてもらうようにしてください。

なお、インフルエンザはこれまで症状が現れてもすぐに検査結果が出ないということがありました。ただ、最近の検査では、熱が出たら早めに受診してもインフルエンザウイルスの結果が出るブライトポックなる検査キットが出たようです。

1-2 数日間はお休みしてもらう

インフルエンザは、感染力が高く、熱が治まっても潜伏期間があります。他のスタッフやお客様にうつさないためにも、しばらくはスタッフに自宅療養してもらうことが重要です。

自宅療養の期間は、会社によってまちまちですが、一般的には「発症後5日間、解熱後2日間」とするところが多いです。よく、インフルエンザは1週間休むことになると言われているのはこの考えが根拠となっているようです。

これは、学校での感染症対策を定めた「学校保健安全法」という法律の考えなのですが、多くの会社ではこの考えを取り入れて、最低でも熱が下がってからさらに2日間程度は休ませるところが多いです。

美容関係の会社様だと、特にエステサロンや美容室など、お客様と関わることが多いので、お客様にうつさないという観点からも、インフルエンザについてはより慎重な対応が必要となってきます。

1-3 診断書の要求はケースバイケース

診断書については、会社としてはスタッフから必ず取得する必要はありません。スタッフ管理を厳格にしたい場合や、病気と言ってずる休みするスタッフがいる場合は診断書を要求することもあり得ますが、スタッフを信用できる場合には診断書は要求しなくても問題ありません。

なお、診断書を要求する場合には、何度も病院に行く手間を考えて、事前にスタッフに通知しておいた方が良いでしょう。

2 スタッフからの休みの申し出について

次に、スタッフの方から会社に休みたいと申し出があった場合の会社側のとるべき対応についてみていきます。

2-1 会社の対応

スタッフからインフルエンザにかかったから休ませて欲しいと連絡があった場合、会社としては休ませることが一般的だと思います。

高熱が出ている社員は無理に会社に来ても、普通に働けないばかりか、周りのスタッフやお客様にうつさないためにも、自宅療養してもらうことになります。

2-2 給料の扱いはどうなる

スタッフから休みの申出があって休ませる場合には、会社としては休んだ分の給与を支払う必要はありません。

インフルエンザのように、スタッフ側の理由によって欠勤になった場合には、基本的には「ノーワークノーペイ」といって、会社は給与を支払う必要は無いのです。

2-3 有給申請を申請してきた場合には

スタッフが休みの時に有給にしたいと言ってきた場合、有給は基本的に休む理由を問わないものなので、会社としてはこれに応じる必要があります。

ただ、会社の有給制度によっては、有給申請は3日前など事前に申し出ること規定しているところもあります。このような会社では、当日の有給申請を拒否することも理論上は可能です。

もっとも、インフルエンザは突然に高熱が出るので、数日前から申請することは難しいですし、会社に出勤することは会社にとっても必要なことですから、有給を認めるところが多いとは思います。

なお、有給の場合には、先ほど説明したように休む理由は問わないので、診断書も必要ないことになります。

3 スタッフが出社したいと言った場合

次に、インフルエンザにかかったが、スタッフが出社したいと言った場合、会社は強制的に休ませることは出来るのでしょうか。

高い発熱が出ている間は出勤しようとするスタッフは少ないと思いますが、最近では抗生剤を飲めばわりとすぐに熱が治まるということを聞きます。
ただ、インフルエンザは熱が下がっても他人への感染力は続くので、会社としては職場での感染を考えて休んでいてもらいたいですが、それをスタッフに強制できるのでしょうか。

3-1 法律の規定

まず、法律の規定から見ていきます。

労働者の安全を守る「労働者安全衛生法」という法律では、事業者に対して、「特定の感染病」にかかったスタッフを休ませるように規定しています。ただ、この「特定の感染病」とは、結核、梅毒、新型インフルエンザや鳥インフルエンザといったもので、季節性のインフルエンザは該当しません。

季節性インフルエンザについては、「感染症予防法」という法律に規定されているのですが、この法律でも季節性インフルエンザについては、就業制限の対象とは一般的になりません。

3-2 強制的に休ませるには就業規則や雇用契約上の定めが必要

このように、季節性インフルエンザについては、法律上休ませることが規定していないので、会社が強制的に休ませるには、就業規則に規定するか、雇用契約上に記載する必要があります。

このような規定があれば、スタッフが出社したいということであっても会社が強制的に自宅療養を命じることが出来るようになります。

3-3 給料の扱いは

会社が強制的に休ませる場合には、スタッフから申出があった場合と異なり、給与を支払う必要が出てきます。法律では、最低でも給与の60%を休業手当として支給することが求められます。

3-4 有給を取らせることは

スタッフの方から有給申請してくれば、会社は応じるだけですが、これに対して会社からスタッフに対して有給休暇を命じることは出来ません。有給取得を申請するかどうかは、スタッフ側しか決めることができず、就業規則等で規定することもできません。

なお、会社としても有給扱いにするほうが何かと都合が良いので、スタッフに有給申請するように話してみることは、問題ないです。ただ、スタッフ側に強制できないので、スタッフ側でそれでも拒否するのであれば、先ほどのように休業手当を支払う休みとするしかありません。

4 傷病手当金によるカバー

インフルエンザは通常よりも長めに休むことが求められますが、この間無休となるとスタッフにも負担を強いることになります。
ただ、健康保険に加入している従業員であれば、傷病手当金の支給という方法があります。

4-1 傷病手当金とは

傷病手当金とは、業務外の病気やケガで会社を休み、その間の支払われない給与を健康保険が支給する給付金です。

支給額は、休んだ日の給与の約3分の2に相当する額となります。
また、支給の申請ができるのは、会社を連続して3日間休んだ後、4日目以降の仕事を休んだ日に対して支給されます。

4-2 有給の休みもカウントされる

連続した3日間の休みには、有給休暇も含まれます。
例えば、インフルエンザになった最初の3日間は有給休暇で休み、4日目以降は欠勤扱いにして傷病手当金を受けることも可能です。

スタッフ側としても、欠勤で収入が減ることは避けたいが、会社から休業手当を出してもらうことは気が引けることが多いと思います。

傷病手当金であれば、会社ではなく健康保険から支払われるものですので、会社、スタッフ両方にとってもメリットがある制度になります。

4-3 傷病手当金の手続きについて

傷病手当金の手続きは、通常は、会社を通して会社が加入している健康保険に行っていくことになります。
まずは、会社の方で加入している健康保険に問合せを行い、傷病手当金の申請用紙などをもらっておくとよいでしょう。

5 まとめ

インフルエンザについては、これまで見てきたように普通の風邪とは違って、周りのスタッフやお客様にうつるなど被害が拡大するおそれがあります。

会社としては、お客様はもちろん、従業員の生命や健康に配慮する義務があります。いくらスタッフがやる気があって出社したいと言ったとしても、そのスタッフや周りで働くスタッフのためにも、会社としては就業規則等を定めて適切に対処する必要があります。

このため、インフルエンザにかかったスタッフが出た場合の対応について、会社内のルールを事前に決めておき、スタッフに対してもルールの理解してもらうことをお薦めしています。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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