【実例付き】サロンが行うべきクレーム対応~弁護士が教えるエステのトラブル対応法②~

 前回の記事お客様からのクレーム対応~弁護士が教えるエステのトラブル対応法①~では、お客様からのクレーム対応について、全般的に説明しましたが、今回は、実例を交えて、サロンが行うべきクレーム対応のポイントを解説していきます。

【case】
痩身サロンAは、「全身10回痩身コース」に通う20代女性から、突然「ここまで9回通ったが、まったく効果が見えないどころか、全身に肌荒れが生じている。こんなのは詐欺だ。もう通うのをやめるので、全額返金してほしい。慰謝料も払ってほしい」と電話を受けた。「返金してくれないなら店まで乗り込む。SNSにも晒してやる」と最初からけんか腰で、スタッフの説明にも耳を貸さない。その剣幕に押されたスタッフは、つい「わかりました」と返答。後に報告を受けたオーナーは、解決までのスピードを優先し、女性から話を聞くこともなく、女性から言われた金額を支払うことを承認した。

さて、今回の件、どこが危険な対応だったか分かりますか?
1つずつ解説していきましょう。

1 サロン側で検討する事情

 まずは、サロンがどのような場合に、どこまで責任を負うのか確認していきます。

1-1 サロンが責任負う根拠は?

 「サロンが責任を取らなくてはならない」=「全額を返金しなくてはならない」根拠は何でしょうか?

 エステサロンにおける施術を行う場合、そのサロンとお客様との間には、サロン側は施術を行いお客様はその料金を支払うという契約を結んでいることになります。そして、不幸にも施術ミスによって、お客様にやけどや肌トラブル、傷を負わせてしまった場合、サロン側は契約違反となり、民法上の損害賠償責任を負うことになります。
 つまり、お客様と交わした契約の内容が大きな根拠となります。クレームを受けたら、第一に、その方と交わした契約内容を把握するため、全ての契約書をチェックするのが基本です。
 そして、お客様の主張していることがどのような事実なのか、正確に把握するためにしっかりと聞き取りを行い、お客様が何を主張しているのか、お客様の体調が現在どのような状況なのか、確認する必要があります。

1-2 サロン側が責任を負わない場合

 では、「9回終了時点で効果が薄い」や、「全身に肌荒れが生じている」点が事実だったとして、サロンは責任を取らなくてはならないのでしょうか?

 まず、サロンで行われる施術では、結果出しまでを完全にお約束するところは少ないと思います。人によって個人差があるのはやむを得ないので、結果が出なかったからといって、サロンは責任を負うことにはなりません。

 次に、お客様の体にトラブルが生じてしまった場合ですが、この場合でも常にサロン側の責任が認められるわけではありません。サロン側が行う事前のカウンセリングで、お客様自身がアトピーや妊娠していたなどの事情を説明していなかった場合には、サロン側も当然お客様の状況を知っていたら、注意したり施術を辞めてもらうようにできたはずです。
このような場合には、サロン側の責任ではなくお客様の自己責任になります。

 このように、9回時点で効果が薄いからといって、サロン側に必ずしも責任があるわけではありません。「事前に効果が出にくい人もいる」ことを書面で説明していれば、「だからサロンに責任はありません」と強く主張できるポイントです。
また、全身に肌荒れが生じた理由についても、具体的に確認することによって、責任を負わない可能性があります。

1-3 サロンの責任の範囲は?

 次に、サロン側が負う責任の範囲はどこまででしょうか。

 法律では、施術ミスによって、お客様に生じた損害すべての責任を負うわけではなく、通常に生じうる範囲までと決められています。
 例えば、お客様に肌トラブルが生じて、皮膚科に通うことになった場合、その皮膚科の診療代とそこまでの交通費は責任の範囲内となります。
慰謝料については、法律上も一定の範囲では認められます。金額は、体にトラブルが生じた個所(顔なのか、腕なのか)や性別(男性なのか女性なのか)によって変わります。相場みたいなものはあまりないのですが、腕などの肌トラブルですと、認められたとしても数十万円といったところかと思います。
 まずは、お客様の主張内容を確かめて、サロンが本当に責任を負わなければならない範囲か、落ち着いて検討する必要があります。

2.今回の事例の危険点について

 それでは、具体的に今回の事例の危険点について確認していきます。

2-1 お客様の状況を確認していない

 今回の痩身サロンAは、お客様から具体的な事情を確認する前に、支払うことを認めてしまっています。
 確かに、このような紛争は心理的に負担になりますので、解決までのスピードを優先したいのは経営者の心理としては理解できます。
ただ、しっかりとお客様の状況を確認しないまま話を進めると、途中でお客様の主張が変わっていっても対応できずに、結局長引くことになってしまいます。

2-2 安易にお金で解決としている

 お客様からクレームを受けて強い口調で主張されると、金銭で解決しようという気持ちになりがちです。ただ、安易にお金を渡す話をすると、それから相手の要求がエスカレートする可能性があります。

2-3 口頭で金額を支払うことを承認している

 お客様との話合いで、治療費と迷惑金を払うことで落ち着いた場合、その内容を書面に残しておいて、一切のトラブルが解決できたことを明らかにしておくべきです。書面が難しい場合には、最低限でもメールでも残すようにして下さい。

3.まとめ


クレームを受けたときには

  1. ①契約書など、根拠となるものを確認
  2. ②お客様の言い分や状態も確認して、自身のサロンが負う責任の範囲を確認
  3. ③話をまとめた時は、書面やメールに残すこと

というのが基本の対応です。

お客様のクレームは、いつ入るかはこちらの予定を立てられません。いつクレーム主張が来ても、慌てず対応できるように、普段から今回の事例の注意点を確認して、その他スタッフにも認識を共有化させておいてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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