生鮮食品・加工食品の表示規制―薬機法適用外の「明らか食品」
食品の表示・広告に関しては、薬機法、景品表示法、健康増進法など様々な法律によって、二重、三重の規制がかかっています。
中でも、食品と薬機法の関係では、食品の製造、販売業者の方々が自社の製品を「食品」であると考えていても、行政の側から、食品の表示・広告の内容によって食品が薬機法上の「医薬品」にあたると判断されてしまうおそれがあります。
その一方で、いわゆる「明らか食品」に限っては、薬機法の「医薬品」の範囲から除外されることになります。
今回は、加工食品や健康食品の製造、販売に携わる方々に向けて、「明らか食品」についての説明、食品を「明らか食品」として販売する際の注意点などについて解説していきます。
【目次】
1 「明らか食品」とは?
薬機法上の医薬品の範囲は、無承認無許可医薬品の指導取締りについてという厚生労働省の通達によって定められています。
この点について、詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
医薬品の範囲に関する通達の一部を抜粋すると、以下のとおりです。
ただし、次の物は、原則として、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識しないものと判断して差し支えない。
1 野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物
「明らか食品」とは、上記通達のうちの「野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物」の一部を省略した通称です。
自社の製品を食品であると考えている場合、製品に「食品」である旨を表示している場合、製品に「医薬品ではありません。」と表示している場合でも、この「明らか食品」に該当しない限り、薬機法の規制が及ぶ点には注意が必要です。
他方で、明らか食品に該当する場合には、医薬品の範囲には含まれないため、医薬的な効能効果の表示・広告の禁止、一般的な広告の禁止などの薬機法上の規制は及ばないことになります。
医薬的な効能効果の表示・広告の禁止の点につき、より詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
1-1 該当性の判断方法について
薬機法は、医薬品の薬としての効果による安全性を確保することにとどまらず、製品の表示広告を信頼した消費者が、本来使用するべき医薬品の使用にたどり着かない危険も防止することを目的としています。
具体的には、医薬品の服用が必要不可欠なほどに血糖値が高い人が、「血糖値を低下させる」という表示があるサプリメントを飲み続け、「自分はサプリを飲んでいるから血糖値は大丈夫」と過信し、医薬品による高い血糖値への対処が遅れる事態を避けるということです。
明らか食品の場合には、消費者は、通常の食生活において、製品の食品としての本質を経験的に十分認識していて、外観、形状等より容易に食品であることが判断することができます。
そのため、消費者がその製品を医薬品と誤認するおそれはない、つまりは消費者が製品の表示・広告を信頼して、医薬品を使わないという選択に出る危険はないとして、医薬品の範囲から除外されることになっています。
このため、「明らかに食品と認識される物」に該当するか否かは、食生活の実態を十分勘案し、外観、形状及び成分本質(原材料)からみて社会通念上容易に食品と認識されるか否かにより判断するものであるとされています。
これを簡単に言うと、一般の人が、製品を見たら、絶対に食品であると思う場合には、明らか食品にあたるということです。
1-2 「明らか食品」の具体例
具体的には、以下のようなものが、明らか食品に該当するとされています。
(ただし、 乾燥品のうち医薬品としても使用される物を除く。)
(例) トマト、キャベツ、リンゴ、牛肉、豚肉、鰯、秋刀魚、鮪 等
② 加工食品
(例) 豆腐、納豆、味噌、ヨーグルト、牛乳、チーズ、バター、パン、うど ん、そば、緑茶、紅茶、ジャスミン茶、インスタントコーヒー、ハム、 かまぼこ、コンニャク、清酒、ビール、まんじゅう、ケーキ 等
③ ①、②の調理品
(例) 飲食店等で提供される料理、弁当、惣菜及びこれらの冷凍食品・レ トルト食品 等
④ 調味料
(例) 醤油、ソース 等
2 「明らか食品」にあたらない例
しかしながら、以上の例示のものであっても特定の成分を添加したもの、遺伝子組み換え技術を用いたものなど医薬品としての目的を持つことが疑われるものについては個別に判断することがあるとされています。
以下では、明らか食品と誤認されやすいものについて説明します。
2-1 お菓子は、明らか食品に含まれていない!
通達が改正される以前は、お菓子も明らか食品の例にあげられていました。
しかし、多様な製品が流通することになったため、通達の例示から削除されるに至りました。
実際に菓子類であるガムの広告表示について、以下のような違反広告例が東京都福祉保健局より出されています。
(引用:東京都福祉保健局、ガムの広告表現について(いわゆる健康食品) )
2-2 清涼飲料水も、明らか食品ではない!
明らか食品の例として、緑茶、紅茶、ジャスミン茶があげられていますが、飲料であるからと言って、明らか食品に該当することにはなりません。
緑茶、紅茶、ジャスミン茶は、従来から自然由来の茶葉を原材料として製造されていると一般的に考えられているとの理由から、明らか食品として例示されています。
このため、単なる飲料にすぎない清涼飲料水は明らか食品には該当せず、清涼飲料水の表示・広告に「疲労回復」などの医薬的な効能効果を表示した場合には、薬機法の規制が及ぶおそれがあります。
3 「明らか食品」として食品を販売する場合の注意点
明らか食品の場合には、薬機法上の規制は及ばないことになりますが、自社の製品を、明らか食品として販売する場合には、以下のような点に注意する必要があります。
3-1 「明らか食品」ではないと行政側に判断されてしまうリスク
明らか食品に該当するか否かの判断は、あくまで行政側が行うものです。
したがって、以下のような場合には、自社の製品を明らか食品に該当するという前提で販売するにはリスクがあります。
- ・加工食品に健康を目的とする成分を添加した場合
- ・動植物であっても専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リストに上げられている成分が含まれているもの
- ・製品の製造の過程で遺伝子組み換え技術を用いたもの
これらの場合には、自社の製品を明らか食品として販売するという選択は避け、製品の表示・広告に医薬的な効能効果を表示しないようにするのが賢明かと思います。
3-2 他の法令(景表法・健康増進法等)にも広告規制があること
明らか食品の場合、薬機法上の広告規制は受けないことになりますが、他の法令(景表法・健康増進法等)による広告の規制を受けることに変わりはありません。
そのため、明らか食品として販売する製品について、表示広告を行う場合には、景表法、健康増進法に基づく広告規制に違反しないことに注意する必要があります。
景表法の広告規制については、以下の記事をご覧ください。
3-3 特定の人向けの表示ができないこと
また、健康増進法上、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用といった特別の用途に適する旨の表示を行う場合には、特別用途食品の許可が必要とされています。
詳しくは、以下の記事に解説していますので、ご覧ください
したがって、明らか食品として販売する製品について、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用などの表示をする場合には、別途、特別用途食品の許可が必要になります。
4 まとめ
今回は、加工食品や健康食品の製造、販売に携わる方々に向けて、「明らか食品」についての説明、食品を「明らか食品」として販売する際の注意点などについて解説してきました。
今回に記事のポイントは、以下の2点です。
- ①明らか食品に該当する場合には、医薬品の範囲には含まれないため、医薬的な効能効果の表示・広告の禁止、一般的な広告の禁止などの薬機法上の規制は及ばない。
- ②明らか食品として販売する製品について表示広告を行う場合には、景表法や健康増進法に基づく広告規制に違反しないことに注意する必要がある。
加工食品や健康食品が「明らか食品」になる例は、それほど多くないと思います。
現在自社の製品は「明らか食品」として製造販売している方、これから自社の製品を「明らか食品」として製造販売しようと考えている方は、今回の記事を参考に、自社製品が本当に「明らか食品」として製造販売できるのかを検討してみてください。