美容室で男性のカットのみはNG?美容師と理容師の業務について

 美容室で男性のカットのみは違法だった!これはいつの時代の話だ、と思われるかもしれませんが、つい最近までの日本の厚労省の考えでした。しかし、ご安心ください。現在は、この考えは改められて、美容室で男性のカットのみでも問題なく行うことができます。
 とはいえ、美容室で男性のカットのみはNGという考えは、平成27年というごく最近までの厚労省の正式な考えとなっていました。
 今回は、美容師と理容師の職域の違いについて、厚労省の考えを整理するとともに美容師と理容師の資格制度の統一など今後の展開について説明していきます。

1 美容師と理容師の違い

 美容師と理容師の違いについては、法律に記載されているとともに、所管する厚労省の考えが重要となってきます。

1-1 美容師と理容師の法律の違い

 それでは、まず美容師と理容師の法律の違いから見ていきましょう。美容師と理容師は、それぞれ「美容師法」と「理容師法」とに分かれていて、皆さんもご存じのとおり資格も分かれています。
  

美容師法
「美容」とは、パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。
理容師法
「理容」とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう。

 これらの法律は戦後の時代に作られており、当初は、美容師はパーマや化粧を行う、理容師は頭髪のカット、顔そりを行う、という区分けがされていました。ただ、この法律だけでは、男性のみもしくは女性のみという区別はありません。

1-2 厚労省の通知

 男性・女性の区分けを認めたものの根拠としては、厚労省から昭和53年に出された法律における通達が根拠となっています。「通達」とは、国会が作った法律についての運用の指針を示したもので、実務上は法律に近い効力を持つこともあります。
 この厚労省からの通達によれば、

美容師が、コールドパーマネントウエーブ等の行為に伴う美容行為の一環として、カッティングを行うことは、その対象の性別の如何を問わず差し支えないこと。また、女性に対するカッティングは、コールドパーマネントウエーブ等の行為との関連の有無にかかわらず行って差し支えないこと。しかし、これ以外のカッティングは行ってはならないこと。

とされています。
 要は、美容師は、女性に対するカットはパーマ等を行わなくともカットのみでOKだが、男性に対してパーマ等を行わずカットのみの行為はNGという整理を行っていたのです。

 さらに、他の通達では、

美容所において、カッティングに関する表示を行う場合には、「男性(又は男子、メンズ等)カット」又はこれに類する表示は不適当であること。

とまでされていたのです。

1-3 実務上の運用

 この通達は、平成27年に厚労省から新しい通達が出されるまでは正式な考えとなっていたので、男性のカットのみを表示する美容室は違法と指摘されてもおかしくはない状況だったのです。
 そうはいっても、平成17年頃から美容師の数が増えて男性も普通に美容室に行く時代となってきました。私も15年くらい前からは、理容室ではなく美容室に通っていました。そんな現状を踏まえてか、取り締まる側の行政も男性のカットのみで違法と指摘すると聞いたことはほとんどありませんでした。
 ただ、ある地域では、美容室の開業の時などに、男性のカットのみと指導するところも実際にあったようです。

1-4 理容師のパーマも禁止

 また、美容師が男性のカットのみがNGとされていたのと同様に、理容師にも規制がありました。規制の内容としては、理容師は男性へのパーマは行えるが、女性に対するパーマを行うことがNGというものでした。
 このように、ここでも男女の棲み分けという思想が表れていました。

2 通達の変更

 時代を反映していない昭和53年の通達は、平成27年に新しい通達が出されてようやく廃止となりました。
 以前、安倍首相も通達が変更される前に、渋谷の美容室に通っていたことが報道され、違法ではないかと指摘されていたのです。時の首相すら間違うくらい、時代に合わなくなっていたことを示すものです。

2-1 変更された通達とは

 平成27年7月17日に発表された新しい通達は、昭和53年の通達を廃止して次の様に扱うとしています。

  1. (1) 理容師がパーマネントウエーブを行うことは差し支えないこと。
  2. (2) 美容師がカッティングを行うことは差し支えないこと。

 これで、晴れて美容師が男性のカットのみも問題なく行えることになったのです。また、あわせて理容師のパーマ問題も併せて解消されることになりました。

2-2 現状での美容師と理容師の職域の整理

 現状での美容師と理容師の違いを整理してみると次のような図になります。

美容室で男性のカットのみはNG?美容師と理容師の業務について

 このように美容師と理容師が行えることの違いと言えば、「顔そり」が挙げられます。「顔そり」の問題については、美容室でシェービング・顔そりを行うのは違法なの?で詳しく記載していますので、こちらをご参照ください。

3 美容師と理容師の職域の今後

 以上のように、美容師と理容師が行えることについては、顔そりを除いてほぼ同じになってきました。
 また、これまでは美容師と理容師は同じ店舗で働くことができなかったのですが、最近の規制緩和で、美容師と理容師は全ての従業員が両方の資格を持っている場合に限り、同一店舗での就業が可能となりました。
 
 さらに、近年は働き手の減少により従業員の確保に悩む店舗が増えていることや、サービスの充実を求めることから、美容師と理容師の資格を同じにしようという声が業界の中から高まっています。
 しかしながら、どこの業界でも反対する勢力というものはつきものです。現在、厚労省でも理容師と美容師のどちらかの資格保持者には、もう片方の資格を取りやすく制度を導入しようとはしていますが、最低でも1000時間程度の履修が要件というふうに議論されています。確かに、理容と美容の技術に違いはあるでしょうから資格の統一は簡単な問題ではないかと思います。利用者への衛生上の問題から、消毒器具をどうするのかという問題もあると思います。

 ただ、私のような利用者目線でいえば、美容室で顔そりまでやってもらえたら嬉しいなと思うところはあります。少子高齢化が進む日本において、これまでにない多様なサービスを作っていって、理美容業界が盛り上がっていってほしいと願います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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