美容医療におけるインフォームド・コンセント

 医療の分野においてインフォームド・コンセントの重要性は古くから指摘されていますが、特に美容医療の分野においては、最近になってもその重要性・必要性が度々指摘されています。
 最近でも日本美容外科学会が、乳房にジェル状の充填剤を注入したことでしこりや感染症などの被害が相次いでいることを発表したことを踏まえ、厚生労働省が美容医療の自由診療においてインフォームド・コンセントを徹底するように通知を出しています。
 今回は、美容医療におけるインフォームド・コンセントの内容について説明していきます。

1 インフォームド・コンセントとは

 インフォームド・コンセントとは、「患者が十分に説明を受けた上で、医療行為を受けることに同意すること」と言われています。
 ただ、美容医療は通常の医療と比べて緊急性が低いことが多かったり、自由診療が行われることが多いなどの特殊性がありますので、注意が必要です。

1-1 診療情報の提供

 まず、インフォームド・コンセントの基本的な事項として、医師や美容医療従事者は、診療中の患者様に対し、次の事項について丁寧に診療情報の提供することが求められます。

  1. ①現在の症状等
  2. ②処置及び治療の方針
  3. ③手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要、危険性及び合併症の有無
  4. ④治療目的以外に、臨床試験や研究などの他の目的も有する場合には、その旨及び目的の内容

1-2 未承認の医薬品、医療機器の情報提供

 次に美容医療において、未承認の医薬品、医療機器を使用する場合や、承認の範囲外の使用をする場合には、当該医薬品、医療機器等が国内の承認等を受けておらず、品質、有効性及び安全性が確認されたものではないことを患者様に説明することが必要とされています。
 この点については、患者様への伝え方が難しいところではありますが、例えば輸入する医薬品等が海外で安全性が証明されている場合には、その事実もお伝えして患者様の不安を取り除くことも必要かと思います。
 ただ、下記でも説明しますが、安全性について虚偽や誇大な説明になってしまうと、かえって患者様の意思決定をゆがめることになってしまいますので、あくまで事実のみを伝えるようにしてください。

1-3 契約条件の提供

 美容医療で自由診療の場合は、長期間の契約になることも多いです。このため、費用についての説明は当該費用によって受けることができる施術の回数や範囲、保険診療での実施の可否等も含めて、丁寧に行うことが必要です。
 また、美容医療の場合、特定商取引法により、患者様にはクーリングオフや中途解約の権利が認められています。このため、当該施術に係る解約条件についても説明することが求められます。

1-4 書面で同意を取る必要性

 インフォームド・コンセントを行うにあたっては、必ずしも書面で行う必要はありません。ただ、口頭だけですと患者様が後で説明を思い出せなかったりする場合もありますし、言った言わないの水掛け論になる危険もあります。
 このため、「同意書」のような形で書面を作成して、説明の際にも書面を参照しながら口頭で説明するというスタイルがおすすめです。

2 インフォームド・コンセントの際の注意点

 これまで、インフォームド・コンセントの内容について説明してきましたが、次は注意点について説明していきます。

2-1 虚偽や誇大な説明

 インフォームド・コンセントを行うに際して、虚偽や誇大な説明をすることは禁止とされています。インフォームド・コンセントとは、患者に治療を受けるかどうかの意思決定をさせるための情報提供を行うものですので、誤った情報を提供することが禁止されるのは当然のことと言えます。
 特に注意が必要なのが、ボジティブな情報だけ伝えて、副作用の説明を行わなかったり、望んだ効果が得られるのが確実かのような説明をすることです。施術の有効性及び安全性に係る説明に当たっては、施術の効果の程度には個人差がある旨を患者様に対して、丁寧に説明することが必要です。

2-2 即日施術の必要性

 美容医療においては、お試しのコースに来たお客様を、その日に施術すれば値下げするとして強引に行ってしまうケースが過去に問題となりました。また、即日施術のお客様は、お客様の方でも十分に考えていないことが多く、後ほど解除だったりトラブルになる可能性が高いです。
 即日施術の必要性が医学上認められない場合には、即日施術を強要することの行為は控えたほうが安全です。また、即日施術を受けることを希望する患者様には、十分に説明を行うとともに、熟慮するための時間を設けた上で、施術を実施することが望ましいです。

3 まとめ

 今回は、美容医療におけるインフォームド・コンセントの説明を行いました。私の弁護士としての経験からしても、やはりインフォームド・コンセントを丁寧に行っているクリニック様は、患者様とのトラブルや途中解除が発生している件数が少ないと思います。
 丁寧な説明を行うことは、患者様だけでなくクリニック経営にとっても有益なことですので、改めて自院の方法を振り返ってみて問題がないか確認していただければ幸いです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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