【実例付き】エステの強引な勧誘によるトラブル~弁護士が教えるエステのトラブル対応法⑤

 エステの契約時に問題になる強引な勧誘によるトラブル。エステサロンにしては、新規契約数を伸ばすために熱心に勧誘することは必要ですが、それも行き過ぎてしまうと後々のトラブルのもとになります。
 今回は、よくありがちな勧誘トラブルについてエステサロンが超えてはいけない一線を解説していきます。

【case】
 個人サロン店のオーナーAさんは、勧誘に力を入れようと体験サービスを利用したお客とのカウンセリングの時間を増やすようにしました。
 ある日、無料体験サービスを受けに来た学生のYに、Aさんは丁寧にカウンセリングを行い施術前から、今後の契約の説明を行っていきました。YもAさんのサービスを気に入ってくれたようで契約に前向きな様子だったが、今後のお金が心配とのことで、体験サービス終了後も契約を決めきれない様子でした。
 そのため、Aさんは、Yがまだ服も着ていない状態で、「あなたの肌は20代とは思えないほど老化が進んでいる。エステを受け続ければ、肌は改善されるし、痩せることも間違いない。」、「今なら1回分7000円の特別価格で契約できると熱心に説得し続けました。その甲斐あってYは契約を決めてくれました。

 さて、今回の件、どこが危険な対応だったか分かりますか?1つずつ解説していきましょう。

1 勧誘の際に気をつけること

 残念なことに、エステの契約においては、強引な勧誘としてこれまで消費者トラブルが多発していた時代がありました。そのために、いくつか法律が整備されて、エステサロンが勧誘時にやってはいけないことが記載されるようになりました。

1-1 事実と違うことを告げること

 まず、勧誘の際にサービス内容や契約内容に関して、事実を異なることを説明することはNGです。
 今回のケースでいうと、Aさんはお客のYに対し、
 「エステを受け続ければ、肌は改善されるし、痩せることも間違いない。」
 と説明しています。

 施術をしているエステティシャンの皆様からの感覚からいうと、痩身効果や美肌効果がでているので、このような説明をしたくなるかと思います。しかし、法律で取り締まっている行政側は、「エステの施術だけで痩せることは科学的にはあり得ず、やせるためには、①カロリーの摂取量を減らすか、②消費量を増やすことでしかあり得ない」という考えになっています。
 このため、エステを受けることで「確実に」肌の改善ややせることを強調すると、「事実と違うことを告げる」ということで違法行為になってしまいます。

1-2 価格の案内

 価格に関してもトラブルが起きやすいです。よく問題となるのが、通常の価格よりも割り引いた特別価格で提供できると説明しておきながら、実際は常に割り引いた価格でしか案内していないような状態となっていることです。
 このような、架空の価格を引き合いにして、安さを強調する説明は違法となってしまいます。なお、この広告の表記でも同じように問題となる点ですので、注意してください。

  1. (問題なケース)
    「今月だけ20%引き」と案内しておきながら、翌月からも同じように「20%引き」をやり続けていている
  2. (適法なケース)
    体験コースを受けてから、1週間以内の契約だったら30%引きと案内していて、それ以外は正規の料金で契約を案内している

1-3 勧誘の時間やタイミング

 その他に強引な勧誘として問題となるのが、お客への勧誘の時間が1時間にもわたることや、エステの施術後に服に着替える前の段階から話を始めることです。
 長時間の説得や、服を着ていない状態で勧誘を受けると、お客としては「いつ帰してくれるのだろう。」「契約をしないと帰れないかも」と恐怖を覚えて契約をしてしまうということがあります。
 このような、お客にとって迷惑な勧誘行為も禁止されています。

2 強引な勧誘は契約を解除されることに

 上で説明したような契約で、まず問題となるのが、せっかく契約できたとしても契約解除されてしまうことです。

2-1 クーリングオフ

 まず、強引な勧誘の後に起こりやすいのが、お客からのクーリングオフの主張です。クーリングオフの通知を受け取った場合の対応方法については、クーリングオフの通知が届いた!どうすればいい?~弁護士が教えるエステのトラブル対応法③~で詳しい説明をしていますので参照してください。

 なお、クーリングオフの通知を受け取った場合には、適正に対応してください。ここで、「クーリングオフできません」などと案内してしまうと、クーリングオフ妨害としてさらに問題が悪化してしまいます。

2-2 取消権

 クーリングオフの8日間が過ぎたからと言って、安心はできません。このような強引な勧誘の場合は、特定商取引法や消費者契約法により、お客から一方的に解約できる権利が認められています。

3 その他の波及

 強引な勧誘の場合、お客から取り消される可能性があるうえに、さらにエステサロンが次のような処分を受ける恐れがあります。

3-1 行政庁からの処分

 上で説明したような禁止行為を行ってしまうと、3年以下の懲役または300万円以下の罰金になる可能性があります。他には、都道府県から、改善指示などをうけることもあります。
 実際に、懲役や罰金までいくことは少ないと思いますが、都道府県からの改善指示はこれまでに何件か公表されています。悪質な事案ですと、「新規契約を6か月停止」などという処分が出されています。

3-2 口コミサイトによる風評被害

 最後に、このような強引な勧誘をしてしまうと口コミサイト等に内容を書かれてしまうことがあります。口コミによる紹介が多いエステ経営にとって、口コミによる悪評の広まりは経営に致命的になるので注意してください。

4 まとめ

 これまで見てきたように、勧誘時には、

  1. ・事実と違うことを告げること
  2. ・価格の案内
  3. ・勧誘の時間やタイミング

に特に注意するようにしてください。

 熱心な勧誘は、エステサロン経営にとってもちろん重要ですが、法律で定められた一線を越えないように注意してください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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