スタッフに労災が起きた場合の対応方法
業務災害や通勤災害などの労災が発生した場合、スタッフは、労災補償を受けることになります。
(◯業務災害についての記事はこちら)
(◯通勤災害についての記事はこちら)
労災補償を受けるためには、申請書などの書類を決められたところに提出しなければなりません。また、そのほかにも、労働基準監督署への対応が必要な場合もあります。
今回は、スタッフが労災にあったとき、エステサロンの経営者が注意しなければならない点について、解説していきます。
【目次】
1 スタッフが労災補償を受けるための手続とは!?
エステサロンのスタッフが、業務によりケガや病気になり、あるいは通勤中にケガをした場合、そのスタッフは、労災制度により補償を受けることができます。
では、スタッフが補償を受けるためには、どのような申請手続が必要なのでしょうか。
1-1 労災申請するのは誰!?
スタッフが労災の補償を受けるには、申請をし、労災認定を受ける必要があります。その申請は、実は、スタッフが自分で行うこともできますし、エステサロンがスタッフの代わりに申請手続を行うこともできます(「代行」といいます)。
もっとも、エステサロンを含め、多くの会社では、エステサロンが申請手続の代行をし、スタッフが自ら申請手続を行うことは多くありません。その理由は、後述するように、提出しなければならない書類が多く、また、書類に会社の印鑑が必要であるからです。
労災申請は、本来であればスタッフが自ら行うものとされています。
しかし、エステサロンとしては、労災申請手続にできるだけ協力することが望ましいといえるでしょう。
なぜなら、エステ業界は離職率が高い業界であるため、スタッフを長く雇用するには、スタッフのエステサロンに対する満足度を上げる必要があります。
事業主が労災申請手続に協力するエステサロンは、スタッフから見れば「大事にしてくれている」という印象を与えるので、離職率の増加を防ぐことができるからです。
1―2 申請はどこにすればいいの?
労災の申請は、原則として、管轄する労働基準監督署長に対して行うこととされています。
申請書は、労働基準監督署で直接もらうこともできますし、労働基準監督署のホームページからダウンロードすることもできます。
なお、スタッフが労災制度により指定された病院(「労災病院」という名称がついていることが多いです)で受診した場合には、労災給付の申請書は、当該労災病院に提出することとなっています。労災病院で受診し、申請書を提出すれば、かかった治療費は最初から補償を受けることができ、スタッフが立て替える必要はありません。
ただし、指定の病院以外で受診した場合には、スタッフがいったん治療費を立て替えなければなりません。
そうしますと、スタッフに高額の治療費を一時的ではありますが負担させなければならず、スタッフの生活を圧迫してしまうことになります。
エステサロンとしては、労災が起きた場合にスタッフが最初から指定の病院で受診できるよう、最寄りの労災病院を把握しておき、ケガ等をしたスタッフにスムーズに案内できるよう用意しておくことが望ましいでしょう。
1-3 労災申請に必要な書類は!?
労災申請に必要な書類は、どのような労災か(業務災害なのか、通勤災害なのか)によって変わってきますし、どのような請求をするのか(ケガや病気の療養費の申請か、遺族による申請かなど)によっても変わってきます。
そして、労働基準監督署で案内される必要書類は、あくまで必要最小限の書類でしかありません。
労災申請をしても、書類の書き方や添付書類が不十分である場合などには、労働基準監督署長により、労災に該当しないとの判断がされることもあります。
そのため、最初の申請の際には、次の点に気をつけるべきです。
- ・申請書類には的確に記入する。
- ・労災であること(業務起因性)を証明できる添付書類を充実させる。
添付書類の例としては、例えば、医師が作成した詳しい診断書(「エステサロンの業務に起因して腰痛になった」旨の記載があるものなど)や、エステサロンの店長などの責任者による説明報告書が考えられます。
どのような添付書類があれば十分かについては、労働基準監督署の職員に聞くことである程度把握することもできますが、社労士や弁護士などの専門家に相談することも効果的です。
1-5 労災申請はいつまでにしなければならないの!?
労災制度による補償を受けることができる期間(時効期間)は、どのような給付を受けるかに応じて、厳格に決められています。
具体的には、次の表のとおりになっています。なお、起算日とは、いつから数えるかというものです。
給付金の種類 | 起算日 | 時効期間 |
---|---|---|
療養給付 | 療養に要する費用の支出が具体的に確定した日の翌日 | 2年 |
休業給付 | 労働不能のため賃金を受けない日ごとに、その翌日 | 2年 |
葬祭給付 | 労働者が死亡した日の翌日 | 2年 |
介護給付 | 介護補償給付の対象となる月の翌月の1日 | 2年 |
二次健康診断等給付 | 一次健康診断の結果を知り得る日の翌日 | 2年 |
障害給付 | 傷病が治った日の翌日 | 5年 |
遺族給付 | 労働者が死亡した日の翌日 | 5年 |
傷病年金 | 時効なし | 時効なし |
上記の表で決められている期間を過ぎますと、労災の補償を受けることができなくなりますので、スタッフから申請手続を頼まれた場合には、申請できる期間に注意するべきです。
2 労働基準監督署への報告は必要!?
上記では、スタッフが労災の補償を受けるために必要な手続を解説いたしました。
そのほか、事業主であるエステサロンは、一定の場合には労働基準監督署に労災が起きたことの報告をしなければなりません。
2-1 報告が必要な場合とは!?
事業主は、一定の場合には、発生した労災に関して、遅滞なく、労働基準監督署に対して報告をしなければなりません(労働基準法施工規則57条、労働安全衛生規則97条)。
- ①労働者が労働災害により、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- ②労働者が就業中に負傷、窒素又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- ③労働者が事業場内又はその附属建物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
- ④労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
上記の4類型は、同じ原因で労災が再発することを防止する必要が特に高いものです。
エステサロンとしては、労働基準監督署に報告することは非常に気が重いですが、速やかに報告するようにしましょう。
2-2 労働基準監督署の調査が入る!?
事業主が違法行為を行っている疑いがある場合には、労働基準監督書の調査が入ることがあります。スタッフが労働基準監督署に相談に行ったり、事業主が提出した報告書に不自然な点があると、調査が入ることが多いようです。
労働基準監督署の調査により、改善するべき点があると判断された場合には、指導票が出されたり是正勧告が出されたりします。
特に是正勧告は、違法行為や違法状態があると判断された場合に出されるもので、それに従わないと法律により罰則が科されることになっています。
労働基準監督署の調査が入る可能性がある場合には、エステサロンとしては、違法行為をしたり違法状態になってしまったりしていないか、今一度確認することが非常に重要です。もちろん、普段から違法状態の有無をチェックすることが重要なのは言うまでもありません。
3 まとめ
以上、労災が起きた場合に、スタッフが補償を受けるための手続と、労働基準監督署への対応について解説いたしました。
特に労働基準監督署への対応は、エステサロンの対応に不備があると非常に大きな不利益を被るおそれがあります。そのため、労災が起きてしまったときは、できればすぐに社労士や弁護士などの専門家に相談することをオススメします。
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