団体交渉における誠実交渉義務とは!?~労働組合②~

 労働組合には、法律により、様々な特典が認められています。その中でも特に重要なのが、使用者が団体交渉を拒否するなど誠実に交渉に応じない場合に不当労働行為の救済申立てを行うことができる点です。
 今回は、団体交渉に誠実に応じなければならないという誠実交渉義務と、それに違反した場合の効果について解説いたします。

1 労働組合に認められる特典とは!?

 まず、誠実交渉義務の前提として、労働組合に認められている特典を見ていきます。

 労働組合の本質的な活動は、労働者が団結し、使用者との間で労働条件の改善に向けた交渉を行うことやストライキなどを団体で行うことにあります。そこで、労働組合法は、労働組合に対して様々な特典を与えることによって、労働組合の活動をサポートすることとしました。

1-1 刑事・民事責任の免除!?

 例えば、ストライキを行うこと(「争議行為」といいます)や団体交渉を強く求める行為が、威力業務妨害罪や建造物侵入罪、強要罪に該当することがあります。また、使用者から損害賠償請求をされるような活動をすることもあります。
 しかし、労働組合やその構成員による活動について犯罪が成立したり損害賠償請求がされたりするとなると、労働条件の改善のための活動をちゅうちょするようになってしまいます。
 そこで、労働組合法は、労働組合による団体交渉や団体行動を実効性のあるものにするため、労働組合の活動が正当な範囲で行われた場合には、刑事責任も民事責任も免除することとしました(労働組合法1条2項、8条)。

1-2 不利益取扱いの禁止!?

 労働者が労働組合に加入したことや、正当な団体交渉や争議行為を行ったことを理由に、労働者を解雇したりすることは禁止されています(労働組合法7条1号)。
 使用者が特に注意しなければならないのが、団体交渉に対して、誠実に交渉しなければならない義務がある点です。

2 団体交渉とは!?

 労働組合は、労働者の労働条件の改善のために使用者と交渉する権利が認められています(憲法28条、労働組合法1条、6条など)。
 前回の記事でご紹介したエステユニオンによる活動も、この団体交渉の一種です。
 そしてエステユニオンは、団体交渉に誠実に応じないエステサロンに対しては、有利に交渉を進めるためにマスコミを使うなど様々な方法を用いています。

2-1 誠実交渉義務とは!?

 使用者は、労働組合からの団体交渉に対し、誠実に交渉しなければならない義務を負っています(労働組合法7条2号)。これを「誠実交渉義務」といいます。

 労働組合による団体交渉が、労働者の労働条件の改善を目的とする重要な権利であると憲法や法律で認められていることから、これを現実的・実効的なものにするために、労働組合法は使用者に誠実交渉義務を課しています。

 もっとも、使用者が団体交渉に応じなければならない交渉事項は、労働組合法である程度定められています。使用者が団体交渉に応じなければならない交渉事項を「義務的団交事項」といいます。

    ◯義務的団交事項

  1. ①組合員である労働者の労働条件その他の待遇
  2. ②当該団体労使関係の運営に関する事項

 上記の①の例としては、労働組合の組合員についての賃金や労働時間、福利厚生などがあります。これらの事項は、歴史的に見てもまさしく団体交渉により労働者の労働条件の改善を図るべきと考えられてきたものだからです。
 もっとも、これら以外の事項でも、結果的に労働者の労働条件の改善に結びつく事項も義務的団交事項であるとされます。例えば、管理職の労働時間を変更することによって結果的に組合員である施術担当のスタッフの労働条件に影響がある場合には、義務的団交事項とされます。
 義務的団交事項になるかは、このように、多角的・長期的な視点をもって判断する必要があります。ですので、エステサロンの経営者の方は、義務的団交事項に該当するかどうかを、非常に慎重に判断することが求められます。

 一方、法律上は、義務的団交事項以外の事項(任意的団交事項)については、使用者は団体交渉に応じる義務はありません。ですが、義務的団交事項であるかどうかの判断が難しいこと、任意的団交事項についても団体交渉に誠実に対応することが労働組合と良好な関係性を築くことができ、長期的にはエステサロンの健全な発展に資する側面があることも事実です。
 そのため、エステサロンの経営者の方は、エステユニオンから団体交渉を求められた場合には、義務的団交事項か任意的団交事項かを厳密に考えるより、誠実に交渉に応じることが望ましいとも考えられます。

2-2 既に解雇したスタッフが労働組合に入ったら!?

 上記で述べた誠実交渉義務は、あくまで、「労働組合が組合員である労働者の労働条件の改善を求めるもの」について生じるものでした。
 では、スタッフが解雇された後に加入した労働組合から団体交渉を求められた場合、経営者の方は誠実に団体交渉に応じる義務を負うのでしょうか。

 確かに、既に解雇されたスタッフは、いくら労働条件の改善を求めてもそれが改善することはないように思えるため、エステサロンとしては団体交渉に応じる義務はないことになりそうです。
 ですが、解雇されたスタッフが解雇の無効を主張し、それが裁判所で認められた場合には、当該労働者はずっとエステサロンのスタッフであったことになります。そうすると、解雇されたスタッフの労働条件の改善を求める団体交渉も、結果として「労働組合が組合員である労働者の労働条件の改善を求めるもの」に該当することになりますので、エステサロンは、誠実に団体交渉に応じる義務を負うことになります。

3 不当労働行為を行うとどうなる!?

 使用者が団体交渉に対し誠実に対応しないことは、不当労働行為に該当します(労働組合法7条2号)。その結果、労働組合は、次の行為をすることができるようになります。

  1. ①労働委員会への救済申立て
  2. ②裁判所での仮処分や訴訟の提起

 ①について、労働委員会とは、労働組合が不当労働行為を受けた場合に、その労働組合を救済するための国や各都道府県に設置されている機関をいいます。
労働委員会は、労働組合から救済申立てがされた場合、あっせん、調停、仲裁などにより、使用者が労働組合に対し示談金を支払う、あるいは労働条件の改善を約束させるなどの和解をするよう促すなどして、労働組合と使用者の間の紛争を解決しようとします。

労働委員会に救済申立てがされますと、その決定に不服がある場合には、紛争は

都道府県労働委員会→中央労働員会→地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所

と最大で5回も審理されることになり、解決までに約10年もかかることがあります。

 このように、不当労働行為を行うと、使用者にとっては時間的・体力的に非常に大きな負担が強いられるうえ、マスコミに報道され店舗の評判を落とすことにもなりかねません。そのため、エステサロンの経営者は、不当労働行為を行わないように細心の注意を払うべきです。

 

4 まとめ

 以上、労働組合の活動に関連する事がら、特に団体交渉と誠実交渉義務について解説しました。
エステサロンの経営者の方は、労働組合から団体交渉を求められた場合には、誠実に対応することを心掛けるようにしましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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