労災とは!?~労働災害と認定されるためには~

エステサロンでは、どうしても長時間労働になってしまうスタッフが多くなってしまうのが現状です。最近では、長時間労働によりうつ病になり、なかには自殺してしまうスタッフもニュースになることが増えてきています。
今回は、労災のうち、業務に起因する「業務災害」とは何かについて解説していきます。
【目次】
1 労災とは!?
業務上の事由による労働者の負傷、疾病、傷害、死亡等を「業務災害」といいます(労働者災害補償保険法7条1項1号)。
スタッフのケガ等が「業務災害」であると認定されると、当該スタッフは基準に従って補償を受けることになります。
労災は企業の営利活動に伴う現象である以上、企業活動によって利益を得ている使用者に当然に損害の補償を行わせ、労働者を保護すべきというのが、労災制度の基本的な考え方です。
それでは、どのような内容・状況下でのケガ等であれば「業務災害」として、労災と認定されるのでしょうか。
2 業務災害に当たるには!?
業務災害とは、前述のとおり、業務上の事由によるケガ等をいいます。
ここでポイントなのが、どのような場合であれば「業務上」といえるのかという点です。
2-1 「業務遂行性」とは?
「業務上」というためには、⑴業務遂行性と⑵業務起因性の2つの要件を備えていなければなりません。
業務遂行性とは、事業主の支配ないし管理下にあることをいいます。業務遂行性のない状態でケガを負っても、それは事業主が補償すべきケガとは言えないからです。
過去の裁判例では、社外で行われた忘年会中のケガや、取引先との親睦会を兼ねた運動会でのケガは、それらへの参加が強制されておらず事業主の支配下になかったため、業務遂行中のケガではないとして、労災であるとは認められませんでした(名古屋高裁昭和58年9月21日判決、神戸地裁昭和63年3月24日判決など)。
同様に、スタッフが休憩中に事業場外に私用で外出し、その際に負傷した場合も、事業主の支配下にある中での負傷とは言えませんので、基本的には労災に当たらないといえるでしょう。
2-2 「業務起因性」とは?
業務起因性とは、業務の有する危険が現実化したことをいいます。
わかりにくい言葉ですので具体例で説明すると、例えばトラックを運転して荷物を運ぶという内容の業務の場合には、交通事故に巻き込まれる可能性が常にあります。このとき、交通事故で運転手が負傷した場合には、業務の有する危険が現実化したといえます。
エステサロンでは、お客さんの施術を担当しているスタッフが腰痛やけんしょう炎になった場合などに、業務の有する危険が現実化したといえます。
2-3 脳・心臓疾患が労災と認められるには?
長時間労働により脳や心臓に障害を生じた場合にも、業務起因性が認められ、労災と判断されます。障害の例としては、くも膜下出血や脳梗塞、心筋梗塞が挙げられます。
厚労省の判断指針(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の判断基準について」(H13.12.12基発第1063号)という指針によると、脳や心臓の疾患に業務起因性が認められるのは、次の基準を満たすときとされています。
- ①発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的・場所的に明確にできる「異常な出来事」に遭遇したこと
- ②発症に近接した時期においてとくに過重な業務に従事したこと
- ③発症前の長期間(おおむね6カ月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらすとくに過重な業務に就労したこと
異常な出来事の具体例は、厚労省の説明によれば、業務に関連した重大な人身事故などに直接関与し、著しい精神的負荷(ストレス)を感じた場合などであるとされています。
また、上記の③では、次のとおり、単に時間外の労働時間の多さから基準を満たすかどうかが審査されます。
- ⅰ発症前1か月~6か月の時間外労働が45時間以下…業務と発症の関連性低い
- ⅱ発症前1か月~6か月の時間外労働が45時間を超える…業務と発症の関連性が強まっていく
- ⅲ発症前1か月の時間外労働が100時間…業務と発症の関連性強い
- ⅳ発症前2か月~6か月の時間外労働が月80時間を超える…業務と発症の関連性強い
このように、時間外労働の時間数だけで労災かどうかの判断がなされています。最近は、この時間外労働の多さだけで労災が認定されるケースが多くなってきています。
エステサロンの人事担当の方は、スタッフの時間外労働をできるだけ抑えて、スタッフが脳・心臓疾患になってしまわないように注意するべきです。
2-4 精神疾患が労災と認められるには?
うつ病などの精神疾患が長時間労働を原因として発症した場合には、労災と判断されることになります。ここでの基本的な考え方は、ストレスの内容・程度とストレスへの耐性のバランスを見るというものです。
厚労省の基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(H23.12.26基発1226第1号)は、次の基準で判断するとしています。
- ①当該精神疾患が業務との関連で発症する可能性のある一定の精神疾患であること
- ②発症前のおおむね6か月間に業務による強い心理的負荷があること
- ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
長時間労働が原因のうつ病の場合、上記基準の①を満たすことになります。そのため、事業主側から争うのは、主に②の基準を満たすかどうかという点です。
過去の裁判例では、上司による叱責や暴言により強い心理的負荷を受けたとして、業務起因性が認められる例が多くなってきています(東京地裁平成19年10月15日判決、大阪地裁平成19年11月12日判決等)。
また、厚労省の解説によれば、発症直前の1か月に160時間を超えるような、あるいはこれと同等の時間外労働を行った場合や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為からも、極度の長時間労働という強い心理的負荷があったと認定されることになります。
うつ病の原因が業務にあるかどうかは医学的にも法律的にも非常に困難な問題です。
厚労省の基準は、できるだけ細かく規定することによって対処しようとしていますが、まだ完全な基準とは呼べない部分もあります。
今後、さらに基準が改良されていくと考えられますので、新たな基準が出た際には、チェックしておく必要があります。
3 まとめ
以上、業務災害に該当するのはどのような場合かを説明いたしました。
長時間労働による脳・心臓疾患やうつ病は、時間外労働の時間数がどれだけ多いかが重要視されます。
エステサロンの経営者や人事担当の方は、スタッフの体調に気を配りながら、疲労がたまっているスタッフを積極的に休ませるなどの措置をとることが重要です。
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