エステサロンが残業代請求を受けたら!?
最近は、労働者が企業に対し残業代請求の裁判を提起したというニュースが良く見られます。残業代問題は、もはや企業を経営する誰もが注意するべき事柄になってきています。
今回は、エステサロンの経営者が、スタッフから残業代請求を受けた場合に注意するべき点を解説いたします。
【目次】
1 残業代請求とは!?
残業代請求とは、スタッフが残業した時間分の賃金が未払であると主張して、使用者に対し未払の残業代を請求する事件のことをいいます。
どの業界でも最近は残業代請求が多いですが、エステ業界でも、開店・閉店作業、施術の練習、タイトなシフトなどが原因で、残業が多い業界と言われています。
また、最近ではエステユニオンという労働組合の活動が活発で、大手・中小問わずエステサロンに対して残業代を請求する事件が増えています。
2 残業代請求を受けたらどう対応すればいい?
スタッフやエステユニオンから残業代請求を受けた場合、エステサロンは適切に対応する必要があります。
もし放置してしまうと、裁判所に裁判を提起され、エステサロンの資産が差し押さえられる危険性があります。また、残業代を支払っていないエステサロンだとマスコミに取り上げられ、サロンとしての信用を失うことにもつながりかねません。
2-1 交渉からスタートする!?
まずは、残業代請求をしてきたスタッフやエステユニオンとの間で、残業代支払についての交渉を開始します。
スタッフがまったく残業していないのに残業代請求をしてくることはまずないので、ほとんどの場合、エステサロンは残業代支払義務を負っていると言えます。そのため、まずは交渉からスタートして、少しでもその支払額を少なくすることを目標とします。
交渉の際には、スタッフなどから受けた請求の金額をうのみにするのではなく、エステサロン側でも正確な金額(あるいは、裁判で負けた場合支払わなければならない金額)を把握しておくことが非常に重要です。
そのためには、当該スタッフの勤務時間・勤務内容、契約書で賃金はどのように定められているかなどの事情を把握し、その証拠を速やかに集め、弁護士などの専門家に相談することが必要不可欠です。どのような証拠を集めるべきなのかについては、エステサロンのオペレーションや弁護士の指示などにより多少変わりますが、基本的には同じような証拠を集めることになります。この点は、後で詳細に説明します。
エステサロン側の調査で支払義務があると考える金額が判明したら、次に、当該スタッフ等と金額の交渉を行います。
一般的な交渉としては、早期に支払うから金額を安くする、あるいはあまり減額しない代わりに長期間の分割払いにするなど、支払金額や方法をどのようにするのかを検討し、その結果を踏まえ交渉していくことになります。
2-2 裁判にはどう対処するの?
裁判の流れは、基本的には、次のようになっています。
スタッフ等との交渉がうまくいかず、支払金額や支払方法について合意ができなかった場合、スタッフはエステサロンに対して裁判を起こすことになります。
仮差押え
通常は、スタッフはまず「仮差押え」といって、エステサロン名義の銀行口座などの財産を「仮に」差し押さえてから、民事訴訟を提起してきます。
この「仮差押え」というのは、民事訴訟を提起する前の段階でスタッフが裁判所に対し申立てをし、裁判で勝訴したら強制執行をかける財産をあらかじめ差し押さえる制度のことをいいます。
「仮に」がつくのは、もしスタッフが民事訴訟に敗訴した場合には、仮差押えが取り消されることがあるからです。
なお、この仮差押えの手続には、エステサロン側は通常は関与できません。また、申立てから1、2週間の短期間で仮差押えがなされることになります。そのため、突然仮差押えがなされて、預金口座などが使えなくなることになるのです。
民事訴訟
次に行われる民事訴訟では、スタッフが原告、エステサロンが被告となって、お互いに主張や証拠を出し合うことになります。
この民事訴訟の段階では、エステサロンは、スタッフの労働時間に関する証拠を出すことになりますので、後述の証拠収集を事前にしっかりと行う必要があります。
また、判決に納得できない場合には、控訴して再度審理してもらうなど、この段階で徹底的に争う必要があります。
強制執行
最後の強制執行は、エステサロンが残業代請求の民事訴訟に敗訴してしまった場合に、スタッフがエステサロンの銀行口座等から自分の残業代分の金銭を強制的に回収する手続のことをいいます。
強制執行の段階では、あまり争うことができません(争っても判断が覆る可能性は低いです)。
強制執行手続が完了し、スタッフが判決で認められた残業代をすべて回収できた段階で、当該スタッフからの請求はすべて終了することになります。
3 証拠はどのように集めるか?
エステサロン側としては、スタッフから残業代請求を受けた場合、当該スタッフの労働時間を把握すること、労働時間に関する証拠を集めることがなによりも重要です。
スタッフが残業代請求をする場合、その労働時間の立証のために、通常、次のような証拠を提出されることが多いです。
①使用者が作成するもの
- ・タイムカード、IDカード、業務管理ソフトに基づく労働時間の記録
- ・自己申告の記録でも使用者の承認のあるもの(上司の承認印や受理印があるもの)
②客観的な記録から労働時間が推認できるもの
- ・事業場にあるPCのログイン、ログオフの記録
- ・業務上送信した電子メールの時間記録
- ・自宅への帰宅メール、携帯電話のメール
- ・業務に使用した携帯電話の通話記録、メール
- ・警備会社の警備記録
- ・出退館記録
③業務上労働者が作成し、使用者が認識しているもの
- ・業務日報
- ・営業記録
- ・報告書
④業務の性質上、一定の労働時間を推認させるもの
- ・店舗の営業時間
- ・参加を命じられた会議や行事の時間
⑤労働者や家族の記録
- ・労働時間のメモ、手帳の記載
- ・家族のメモ
エステサロンでは、通常シフト制がとられているので、スタッフの労働時間の把握は容易かもしれません。
ですが、シフト表と実際の労働時間が異なる場合には、上記の証拠によって労働時間の立証することになります。
そのため、シフト表があるからといって安心するのではなく、その他にも労働時間に関する証拠をエステサロン側で残しておくことが望ましいです。
4 事前に対策しておくべきこととは!?
前記の証拠のうち、①タイムカード、IDカード、業務管理ソフトなどの記録や承認印のある自己申告書等は、使用者側で用意できる数少ない証拠です。
そのため、使用者としては、将来スタッフから残業代請求を受けた場合に備えて、普段からこれらの証拠を用意しておくことが非常に重要です。
また、スタッフが故意に労働時間を水増しした証拠を残さないように気を配ること、そのような証拠を残された場合にも反論できる証拠をきちんと用意しておくことが重要です。
さらに、業務管理ソフトで記録している場合には、スタッフの労働時間を使用者側が自由に修正できるようにしておくと、せっかくの証拠の価値が減ってしまうことになります。
修正できるように設定しておくことは間違えて記録してしまった場合に備えて必要な機能ですが、あくまで適正な労働時間の管理のための機能であることを認識し、悪用しない、あるいは悪用されないよう注意しなければなりません。
5 まとめ
以上、エステサロンがスタッフから残業代請求を受けた場合、どのように対応するのか、証拠はどのように集めればよいのかについて解説いたしました。
次回は、残業代請求訴訟において使用者がよく行う反論について紹介し、そのような反論を行うときの注意点を解説いたします。
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