就業規則の見直し・変更する際に注意すべきポイントとは?
最近では、残業代未払問題がニュースで取り上げられることが多く、エステサロンの経営者の方々も、頭を悩ませていると思います。
この問題に対処する方法として、変形労働時間制の導入や給与規程の改正が考えられますが、現行の就業規則でこれらを定めていない場合、就業規則の見直し、変更が必要になります。
そして、就業規則の変更には、手続面も内容面も法律による制限があります。
今回は、手続面を簡単に説明し、就業規則の変更の際に注意しなければならない内容面をメインに解説していきます。
1 手続面
就業規則の変更には、就業規則を新たに作成した場合と同じ手続が必要となります(労働契約法11条)。
具体的には、
- ➀就業規則の変更文案の作成
- ➁労働者の過半数で組織する労働組合の意見聴取(そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数の代表者の意見聴取)
- ③労働基準監督署長への届出
- ④変更した就業規則の労働者への周知
上記の手続きが必要となります。
これらの手続をしっかり行わないと、エステサロンの経営者に罰則が科されることになってしまいます(労働基準法120条1号)。
2 内容面
就業規則の変更は、エステサロン経営者の自由にして良いというわけではなく、法律の定めに合致する内容でなければなりません。
では、その法律の定めはどのようになっているのでしょうか。
2.1 労働協約や労働契約との関係に注意
就業規則を新たに作成するときと同様に、変更した就業規則の内容も、労働協約より不利なものであれば、労働協約で定めた内容が労働者と事業者との間の権利義務関係になります(労働基準法92条1項、労働契約法13条、労働組合法16条など)。
また、変更した就業規則と労働契約を比較して、労働契約の方が不利であればその部分の労働契約は無効になり就業規則が適用されますが(労働契約法12条)、逆に労働契約の方が有利であれば労働契約が適用されます(労働契約法7条ただし書)。
このように、せっかく変更した就業規則の内容が労働協約などより不利であれば、変更した意味がなくなってしまいます。
例えば、「うちのサロンには正社員と契約社員の両方がいるが、契約社員は正社員ではない」と考えて、契約社員の給料を引き下げる場合などが考えられます。しかし、契約社員も労働法上は労働者であり、労働法の適用があるので、契約社員の給料を引き下げることは、労働条件の不利な変更に当たってしまいます。
就業規則を変更する際には、労働協約や労働契約より不利な内容のものになっていないか注意して変更文案を作成する必要があります。
2.2 合意なく労働者の不利益に就業規則を変更してはならない
就業規則は、原則として、労働者との個別の合意がなければ、労働者の不利益になるように変更することはできません(労働契約法9条本文)。
労働契約法9条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
ですが、この労働契約法9条本文を反対に解釈すれば、労働者と合意すれば、就業規則を労働者にとって不利益に変更することが許されます。
つまり、エステティシャンの個別の同意を得れば、就業規則を不利に変更することが法律により認められます。
ただし、注意しなければならないのは、最高裁は、ここでいう「労働者の合意」は慎重に検討しなければならないと考えていることです(最高裁平成28年2月19日判決)。
この最高裁の事案は、信用金庫が、他の信用金庫と合併した後に就業規則を変更して退職金規定を変更した結果、合併前の信用金庫で管理職にあった従業員の退職金が0円になる可能性が生じたが、その可能性を従業員にきちんと説明しないまま就業規則の変更の同意書を書かせたというものでした。
そして、最高裁は、労働者の同意の有無は、次の判断基準に従って検討するべきだとしました。
- 労働者の同意が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すること
- その理由の有無は、①労働者の合意を意味する行為の有無、②労働者が受ける不利益の内容及び程度、③労働者の合意行為の経緯や態様、④それに先立つ労働者への情報提供や説明内容等の事情を総合的に考慮するべき
①の「労働者の合意を意味する行為の有無」とは、前述の最高裁の事案でも行われたような、労働者の同意書の作成などを意味します。
最高裁は、労働者にきちんとした説明をしないまま、ただ単に同意書を作成させても、それでは就業規則が不利に変更されることを労働者が理解していたとは疑わしいとして、労働者の同意はなかったと結論付けました。
就業規則変更の内容が賃金の減給など、労働者の重要な権利を制限する者である場合には、上記のような注意をしないと、後になって差額分の未払給料の請求を受けるおそれがあります。
エステサロンの経営者の方も、就業規則をスタッフにとって不利に変更する際には、単に同意書を書いてもらうのではなく、変更内容をきちんと説明し、納得してもらった上で同意書にサインをもらうようにするなどして、慎重に就業規則を変更する必要があります。
2.3 合意なく変更できる場合
就業規則を労働者に不利に変更するには、上記のとおり、原則として労働者の同意が必要です(労働契約法9条本文)。
ですが、毎回同意を得なければならないとすると、非常に面倒です。また、どうしても同意してくれないスタッフがいると、同意したスタッフとの間で不公平が生じ、スタッフのモチベーションの低下にもつながります。
そこで、法律では、限定的ではありますが、労働者の同意なく就業規則を不利に変更できる場合があると定めています。
労働契約法10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
この労働契約法10条は、簡単にまとめますと、
- 労働条件の変更が合理的なものであること
- 変更後の就業規則が労働者に周知されていること
という事情があれば、労働者の同意なく就業規則を不利に変更することができるというものです。
過去の裁判例をみてみますと、①労働条件の変更が合理的なものであるかどうかの判断に際し、次のような事情が考慮されています。
- 定年制の引き下げの場合には、定年を何年間引き下げるのか
- 給料の引き下げの場合には、何パーセント引き下げて、いくらの給料になるのか
- 会社の財務状況が非常に悪いなど、給料引き下げの必要性はどの程度高いのか
- 労働時間や給料などの重要な権利を不利益に変更する場合には、代償としてどのような措置をとることが予定されていたのか
- 労働組合等との協議、交渉をどの程度真剣に取り組んでいたか
注意するべきは、単に会社の財務状況が悪いというだけでは、合理性があると判断されることは少ないという点です。
ですので、一気に給料を引き下げるのではなく、段階的に少しずつ引き下げていくなど、労働者の権利を制限する程度が少なくなるような工夫をするべきです。
また、段階的引き下げと並行して、福利厚生の幅を厚くする、各種手当を増額するなど、給料引き下げにより労働者の生活がおびやかされないようにする努力もするべきでしょう。
労働組合等との協議、交渉も、エステユニオンなどと真摯に交渉することが求められます。特にエステユニオンは、最近活動が熱心ですので、誠実な対応をすることが重要ですし、そうすることによって「法律を守っている優良なサロン」とアピールすることもできます。
3 まとめ
以上みてきましたように、就業規則の変更には、手続面と内容面の両方で法律による制限があります。
特に内容面については、裁判で争われ、結局会社・経営者側が負け、差額分の給料を支払うことになるケースが多いです。
エステサロンの経営者の方も、就業規則の変更がスタッフにとって不利益な内容のものでないか入念にチェックし、不利益変更である(もしくはそのように疑われる)場合には、同意書だけでなく、誠実な態度でスタッフやユニオンと交渉することが重要です。
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