エステティシャンは「労働者」?
最近よく、「業務委託契約だから残業代を払う必要はないでしょう」という法律相談を会社からされることが多いです。しかし、エステティシャンとの契約が「業務委託契約」という名前だからといって、「労働者」ではないと安心してはなりません。もしかすると、エステティシャンから残業代の請求をされてしまう可能性もあります。
【目次】
1 「業務委託契約」なら安心?
確かに、業務委託契約は、雇用契約(労働契約)とは別の名前ですし、会社側も労働法の適用がされないようにするために業務委託契約という名前にする場合もあるという話を耳にします。
ただ、いくら契約書で業務委託契約書を雇う人との間で作成していたとしても、契約書どおりに判断されない場合があるので注意が必要です。
1-1 労働法とは
企業が人を雇うときには、労働法に定められたルールに従わなければなりません。みなさんもよく「労働法」という法律名は聞いたことがあるかと思います。でも実は「労働法」という名前の法律は存在しないのです。
一般的に「労働法」とは、雇う側と雇われる側の契約関係についてのルールの総称のことをいいます。例えば、労働基準法や労働契約法、育児・介護休業法や裁判例も、このルールに含まれ、「労働法」という名前でまとめて呼ばれています。
1-2 労働法が適用される場面
労働法が適用されるのは、会社側と従業員との間に「雇用契約(労働契約ともいいます。)」が成立したときです。
では、どのような場合にサロンとエステティシャンの間の契約に労働法が適用されるのでしょうか。「業務委託契約」を締結しておけば、「労働法」の適用はなく、残業代を支払わなくて良いということになるのでしょうか。
答えは最初も説明しましたとおり、「NOの場合もある」のです。
2 雇用契約(労働契約)とは
まず、労働法を説明する前に、民法から見ていきたいと思います。民法623条には、次のように定められています。
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
そして、民法の特別法である労働契約法にも同趣旨のことが定められています。簡単に言うと、雇用契約とは、会社の指揮監督の下で、労働者が労務を提供し、それに対して賃金が支払われる契約ということになります。
おおざっぱな説明ですが、この雇用契約(労働契約)が成立すると、労働法が適用されることになります。
2-1 労働法が適用されるかどうかの判断基準
仕事をするときの契約関係には、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、パートなど、様々な種類があります。業務委託契約も仕事をするときの契約関係の一つです。
では、その中でどの契約関係が「雇用契約(労働契約)」であり、労働法が適用されるのでしょうか。
労働法の一つである労働基準法には、次のように書いてあります。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう(9条)。
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう(10条)。
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう(11条)。
この中で最も重要なのは、どのような人が「労働者」になるか(労働者性があるか)という点です。賃金が支払われることも重要なのですが、労働者でなければ賃金の請求はできないため、先に労働者性を判断する必要があるからです。
2-2 実際に裁判で争われた事例
この労働者性について、最高裁判所は、トラック運転手の労働者性が問題となった事案において、次の事実関係を重要視して、トラック運転手の労働者性を否定しました(最高裁平成8年11月28日判決)。
①トラックを自己所有し必要経費等も自己負担していたこと
②業務遂行上の指示が時間や場所等の当たり前な事柄だけであったこと
③出来高払いであったこと
④所得税の源泉徴収や社会保険料等の控除がなかったこと
一般的に、労働者性の判断においては、以下の各要素を総合的に考慮するとされています。
- ➀指揮監督下にあるかどうか
ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
イ 業務遂行上の指揮監督の有無
ウ 場所的時間的拘束性の有無
エ 代替性の有無(ほかの人でも業務遂行できるか) - ②報酬に労務対償性があるかどうか(報酬が時間単位であるか成果単位であるか)
- ③補助的な考慮要素
ア 事業者性の有無(機械・器具の負担、報酬の高額性)
イ 専属性の程度(他社の業務への従事が事実上制約されているか)
ウ 公租公課の負担
最高裁平成8年11月28日判決も、おおよそ上記の一般的な判断基準に従って判断がなされています。
この判断基準に従い労働者性が認められますと、その労働者に対して賃金を支払っている使用者との間で、雇用契約(労働契約)が成立したことになり、労働法の適用がされることになります。
3 エステティシャンの労働者性
それでは、一般的なエステティシャンの労働者性について検討していきます。
上記に挙げた判断基準の
➀指揮監督下にあるかどうか
②報酬に労務対償性があるかどうか
に該当しますと、契約の名前に関係なく、「雇用契約(労働契約)」と判断されることになります。
3-1 ①指揮監督下にあるかどうか
一般的に、エステティシャンはエステサロンに勤務し、そのサロンで予約したお客様に対して施術をしますが、施術内容はお客さんの予約したコースなどにより決まる上、施術内容が人によって大きく異なるということもなく代替性があります。そのため、使用者(サロン)からの指揮監督下にはないようにも思えます。
ですが、そもそもそのお客さんを担当するということが、サロンの指示であるといえますし、その指示に従わないということは基本的にはできません。また、勤務場所はサロンの店舗と決まっておりますし、勤務時間も営業時間やシフトの関係で決められています。したがいまして、エステティシャンは、サロンの指揮監督下にあると判断される場合が多いと思われます。すなわち、労働者性が肯定されやすいです。
一方で、どのお客さんを担当するかを決めるシステム次第では、指揮監督下にないと判断されることもありえます。例えば、お客さんが予約をする際にエステティシャンを指名しなければならないシステムのサロンで、エステティシャン同士でお客さんの担当を交代せず、施術に必要なアロマを自費で用意し、サロンから受け取る報酬も完全歩合制のような場合などには、もはやサロンから間借りしているだけの独立の事業主としてサロンの指揮監督下にないと判断される可能性もあります。
3-2 ②報酬の労務対償性
労務対償性とは、受け取る報酬と仕事との間に対価関係がある場合をいいます。サロンから給与が支払われる給与は、基本的にはエステティシャンがお客さんに対して施術を行ったことに対する報酬ですので、労務対償性があるといえます。すなわち、労働者性が肯定されやすいといえます。
3-3 ③補助的な考慮要素
一般的なエステティシャンは個人事業主ではなく、系列店舗以外で勤務することはできず、給与から源泉徴収や保険料が控除されます。これらの事情は、労働者性を肯定する方向の事情です。
以上を総合的に考慮すると、一般的なエステティシャンは、①サロンからの指揮監督下にあり、②給与も施術に対する報酬であり、③補助的な考慮要素事情も労働者性を肯定する方向のものですので、労働者性があることになります。
4 まとめ
一般的なエステティシャンに労働者性があるため、エステティシャンとサロンの間の雇用契約には労働法の適用があることがわかりました。そこで次回以降では、労働法の内容について説明していきたいと思います。
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