解雇権濫用法理とは!?~退職・解雇・雇止め②~
解雇は、使用者がスタッフとの雇用契約関係を一方的に打ち切るものですので、法律により禁止・制限されるルールがあります。今回は、解雇を禁止・制限するルールのうち、もっとも重要な解雇権濫用法理について解説していきます。
【目次】
1 解雇が制限される種類
解雇は、主に次の4通りの禁止・制限を受けます。
①解雇権濫用法理
②解雇禁止期間
③解雇予告
④その他法令による解雇の禁止
2 解雇権濫用法理
解雇権濫用法理とは、解雇の理由が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合に、解雇を無効とするルールのことをいいます。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
2-1 どのような場合に解雇権濫用になるの?
解雇権濫用法理は、前述のとおり、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められない場合には、無効になります。
簡単に言えば、労働者の行為が解雇されてもやむなしと言えるものであるかどうか、解雇がやむなしと言える場合でも、実際に解雇することが労働者にとって酷はないかどうかという検討を行うことになります。
これらの2つの要件は、文言だけで見ると、そこまで高いハードルとは思えないかもしれません。
しかし、解雇が労働者としての地位を奪い、賃金を受給させなくするという重大な効果を発生させるものであることから、上記2つの要件を満たすかどうかは、非常に厳しく審査されます。
かなり多くのケースで、解雇以外の方法で問題を解決できないかどうか、全体の業務にどのような支障が生じたかが考慮されます。解雇が有効とされるには、これらの事情を考慮してもなおスタッフを解雇することが相当であると言えなければなりませんので、かなり高いハードルを越えなければなりません。
以下では、普通解雇について、良く見られる事例を用いて、解雇権濫用法理のハードルを越えることがどの程度難しいものなのかを見ていくことにします。
2-2 スタッフが欠勤・遅刻を繰り返している場合はどうか?
スタッフの欠勤・遅刻は、労務提供義務に違反するものですので、基本的には解雇理由になります。
もっとも、解雇権濫用法理があるため、欠勤・遅刻を理由に有効な解雇を行う際のハードルは高いです。
具体的に考慮される事情としては、欠勤・遅刻の回数・程度・期間、欠勤・遅刻の連絡状況(無断かどうか)、欠勤・遅刻の理由、欠勤・遅刻が業務に及ぼした影響の程度、使用者からの注意の内容、スタッフの改善見込みの程度等の事情が総合的に考慮されます。
そのため、無断欠勤といえども、何回も繰り返されただけでは解雇は有効とされず、解雇を有効とするには、予約していたエステサロンのお客さんの施術ができなくなったことや、店長などから何度も注意したことなどが必要です。特に店長などからの注意はほぼ必須といえるでしょう。
2-3 スタッフに能力が不足している場合はどうか?
スタッフに能力が不足している場合にも、エステサロンとしては、もっと優秀な人材を採用するため解雇したいと考えることがあるでしょう。
しかし、単なる能力不足を理由とする解雇は、解雇権濫用法理により無効とされるリスクがあります。
過去の事例では、スタッフの成績が不良で、業務中に数多くのミスを繰り返していたという事情からは、当該スタッフに対する会社の評価が低くなるのはやむを得ないが、ミスをしたことが慣れない業務によるものであり、ミスをしない業務もあったことなどから、解雇するほど重大な能力不足とはいえないとした裁判例があります(大阪地方裁判所平成14年3月22日判決)。
エステサロンでは、求められる施術レベルに達していないスタッフもいるかと思われますが、今後練習すれば能力が向上する可能性がありますので、能力不足を理由とする解雇は無効となるリスクが高いと考えられます。
2-4 スタッフに協調性がない場合はどうか?
スタッフに協調性がなく、それが原因で事業遂行に重大な支障が生じている場合には、スタッフを解雇することが有効となることもあります。
過去の裁判例では、具体的にスタッフがどのような言動を行ったのか、協調性欠如はどの程度のものなのか、業務への支障はどの程度生じているのか、どの程度注意を行ったのか、協調性が回復する可能性はあるのかなどの事情が、解雇の有効性の判断に際し考慮されています。
2-5 スタッフが業務外で病気やケガになった場合はどうか?
スタッフが業務外で私傷病になり、それが原因で仕事ができなくなった場合には、いきなり解雇することは、原則としてできません。
エステサロンに休職制度がある場合には、まずは休職制度を適用してスタッフを休職させるべきであるとされます。休職制度を設ける趣旨が、スタッフをいきなり解雇して労働者としての地位を奪うのでは酷であることから、復職の可能性を残し労働者が賃金を得られなくなるという不利益を少しでも緩和する点にあるからです。
もっとも、休職制度を適用しても復職可能性が0であると医学的に証明できる場合には、例外的にいきなり解雇することは可能です。しかし、よほどのケガや病気でない限り、そのような医学的証明は難しいと言えます。
2-6 スタッフが経歴詐称していた場合はどうか?
一般の会社では、経歴詐称を解雇事由として就業規則に定めているところもあります。エステサロンでも、応募してきたスタッフが有名サロンでの勤務経験があるから採用したが、実は嘘だったなどと、経歴詐称が問題になることもあります。
単なる経歴詐称があった場合、そのことだけを理由にスタッフを解雇することは難しいと考えられます。経歴を詐称したからといって、サロンの業務に重大な支障が生じているわけではなく、また施術担当として採用するのであれば、今後訓練することにより技術が向上する可能性が十分あるからです。
一方、他のエステサロンで店長業務を経験したという経歴を重視して、自社でも店長業務を行わせるために採用したが、実際には店長経験がなかった場合には、代替のききにくい即戦力を期待して採用したのですから、この場合には経歴詐称を理由に解雇することは認められやすくなります。ただし、施術担当などへの配置転換を検討する必要はあると考えられます。
3 まとめ
以上の事例で見てきましたとおり、解雇権濫用法理は、非常に高いハードルです。このハードルを越えるには、スタッフの側に非常に重大な問題があって、その問題を解決するには解雇以外に方法がないことが基本的には必要です。
そのため、エステサロンでスタッフを解雇したいと考え解雇しても、後の裁判で解雇が無効だと争われると敗訴するリスクが高いといえます。
そこで、スタッフを解雇するには、解雇以外の方法、例えば退職勧奨や合意退職が有用です。また、採用の際に、勤務態度がどうなりそうか、私傷病はないかなどを確認し、問題があるスタッフは採用しないことが非常に重要です。
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