実際に残業代計算してみよう!

 実際に、スタッフからの残業代請求があった場合に、残業代の計算はどのようにされるのでしょうか。
 普段の労務管理やコンプライアンスの観点からも、残業代の計算方法については理解しておくことが望ましいです。そこで、今回は実際の残業代の計算方法について解説いたします。

1 スタッフからの残業代請求の書面の内容とは!?

 スタッフから残業代請求を受けるときは、通常、スタッフから内容証明郵便が送られてきます。内容証明郵便とは、エステサロンにその内容の書面がいつ届いたかが記録されている郵便のことをいいます。
 その内容証明郵便には、「未払となっている残業代合計〇〇万円を、本書面受領の日から1週間以内に支払うよう催告いたします。」などと記載されています。

2 残業代の金額の計算方法とは!?

 それでは、スタッフから前記のような残業代請求の内容証明郵便が送られてきた場合、エステサロンの経営者の方はどのように残業代を計算すればよいのでしょうか。実は、残業代の計算は、法律により、計算方法が決められています。
 「単に時間単価を残業時間に掛けるのではないのか?」と思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。確かに、基本的には時間単価を残業時間に掛けることで計算するのですが、いろいろと細かい制限が決められているのです。

2-1 就業規則がある場合の計算方法は!?

 エステサロンで就業規則が定められている場合には、残業代の計算をするときに、就業規則の内容と労働基準法などの法律の内容を比較する必要があります。
 といいますのも、就業規則が労働基準法よりもスタッフにとって有利な内容を定めている場合には、就業規則における残業代計算の方法に従うことになるからです(労働契約法13条など)。

2-2 時間単価の計算方法は!?

 以下での計算方法は、月給制を前提に、就業規則ではなく労働基準法に従った計算方法です。残業代は、前述のとおり、基本的には、「時間単価×残業時間数」という計算式で計算します。
その際の時間単価は、次のとおりに計算します。

時間単価=月額所定賃金÷月間所定労働時間

 所定労働時間とは、就業規則等で定められている、あらかじめ予定されていた労働時間数をいいます。
例えば、就業規則で、次のとおり労働時間が定められているとします。

  1. ①所定労働時間
     午前9時~午後5時まで(うち、休憩時間1時間)
     =1日あたりの所定労働時間は7時間
  2. ②休日
     土曜日、日曜日、国民の祝日
     年末年始(12月31日、1月1日、2日、3日)

 月給制の場合、時間単価は、「月給をその月における所定労働時間数で除した(割った)金額」であるとされています(労働基準法施行規則19条4号)。そのため、例えば月給が15万円のスタッフの平成29年1月の時間単価は、次の計算になります。

  1. ①月給
     15万円
  2. ②所定労働時間
     就業規則により、1月1日及び2日と国民の祝日(成人の日)は休日なので、所定労働日数は、
     1月4日~6日、10日~13日、16日~20日、23日~27日、30日~31日の合計19日間となります。
     1日当たり、休憩時間を除いて7時間の勤務をすることになっていますから、平成28年1月の所定労働時間は、
    19日間×7時間=133時間です。
  3. ③時間単価
     所定月額賃金÷所定労働時間=15万円÷133時間=1127.81円となります。

2-3 時間単価を計算する際の注意点!?

 時間単価は、基本的には、月給を所定労働時間で割ることによって計算します。ですが、その計算をする前に、月給から一定の手当を控除しておかなければなりません。

 時間単価の計算の際に月給から控除する必要があるのは、労働基準法施行規則21条や各種通達によれば、次の手当とされています。

  1. ①家族手当
  2. ②通勤手当(※実費相当分の支給の場合)
  3. ③別居手当
  4. ④子女教育手当
  5. ⑤住宅手当(※一定額の支給では控除できない)
  6. ⑥臨時に支払われた賃金
  7. ⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナス、能率手当など)

 これらの手当に該当するかどうかは、手当の名前はどうあれ、その実質で判断することになります(昭和22年9月13日基発第17号)。また、これら以外の手当を控除することはできません。

3 残業代の計算方法とは!?

 上記の例では、1日の所定労働時間は、午前9時~午後5時までで、休憩時間が1時間あるので、実労働時間は7時間でした。
 では、この場合に午後9時まで残業したら、残業代はどのように計算するのでしょうか。

3-1 法内残業と法外残業とは!?

 労働基準法32条2項により、労働時間は1日8時間までに制限されています。では、1日の所定労働時間が7時間の場合、法律による割増賃金が発生するのはいつからなのでしょうか。

 1日の所定労働時間を超えた時間は一応すべて残業時間となりますが、法律による1日8時間の制限に満たない分は「法内残業」といわれます。一方、1日8時間の制限を超えた残業時間は「法外残業」といわれます。
 そして、割増賃金が発生するのは、このうち「法外残業」だけとなっています。

3-2 法内残業と法外残業の残業代の計算は?

 労働基準法により割増賃金が発生するのは、法外残業のみとなっています。そのため、法内残業については、割増賃金は発生しません。
 しかし、契約で定められた所定労働時間より多く働いたことは間違いないので、法内残業時間については、時間単価分の残業代を割増しないで計算した金額を支払う必要があります。

 一方、法外残業については、次のとおり、労働基準法により割増賃金を支払わなければなりません。

通常の法外残業 25%以上
深夜労働 25%以上
法外残業&深夜労働 50%以上
休日労働 35%以上
休日労働&深夜労働 60%以上

3-3 実際の計算結果は!?

 平成29年1月に、月給15万円、1日の所定労働時間が午前9時~午後5時まで(うち休憩1時間)のスタッフが、ある1日だけ午後9時まで残業をした場合には、次の計算のとおりになります。

  1. ①時間単価…1127.81円
  2. ②法内残業分…時間単価×1時間=1127.81円
  3. ③法外残業分…時間単価×1.25%×3時間=4229円(小数点以下四捨五入)

 このほか、残業が複数日行われた場合には、1週間の労働時間の原則的な上限である40時間を超えることにもなりますので、その分の割増残業代も支払う必要があります。

4 まとめ

 以上、今回は非常に簡単な例を使って、実際に残業代の計算を行いました。
 実際の残業代請求では、労働時間の把握という大きな問題があるので、上記の計算にたどり着くまでが非常に大変です。
 労働時間の管理をしっかり行い、かつ上記の計算ができれば、普段の労務管理やコンプライアンスに役立ちますので、残業代の計算方法を勉強されることをオススメします。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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