【実例付き】エステ施術によるアトピーなどの肌トラブルへの対応方法~弁護士が教えるエステのトラブル対応法④

 エステ施術のお客様からのクレームで多いのが、施術中や施術後の肌トラブルです。「ふきでものができた」「肌がひりひりして赤くなっている」などなど。
 このような肌トラブルでお客様対応を誤ってしまうと、後々深刻なトラブルに発展してしまいます。今回は、よくありがちな肌トラブルのクレームについてエステサロンが取るべき対応方法を解説していきます。

【case】
 フェイシャルエステのサービスを行っているサロンAに、先日来店したお客様から相談の電話がありました。電話の内容は、先日のエステ施術によって、顔が赤く腫れて痛みがある状態とのこと。
 施術を担当したスタッフに確認したところ、そのお客様はアトピー性皮膚炎であったが症状が軽かったので、お客様に納得してもらった上で施術をしたようでした。サロンAとしては、ステロイド剤を使用したことがある場合には皮膚に一時的に炎症を起こす場合があるが、エステを継続すれば次第に症状が改善されると案内して、お客様の施術を継続していきました。

さて、今回の件、どこが危険な対応だったか分かりますか?1つずつ解説していきましょう。

1 サロン側で行うこと

 エステ施術後にお客様から肌トラブルが起きたと電話を受けたとき、次の3つの対応が基本です。

1-1 その①:症状の聞き取り

 まずは、お客様の症状をできるだけ正確に聞き取りを行いましょう。どこの箇所がどのような状態になっているのか把握することが対応の第一歩目です。
 お客様から聞き取りができたら、そのお客様を担当していたスタッフにも施術の状況を確認してください。事前にカウンセリングシートを作成していた場合、そのお客様が申告していた状況も確認しましょう。

1-2 その②:病院への案内

 お客様の状況が把握できたら、次はそのお客様に病院へ行くようにご案内してください。ここで重要なのが、安易に自分たちで皮膚の状態を判断しないことです。
 エステはあくまで、お客様をより美しく健康にさせたり、心身をリラックスさせることを目的にするものであり、肌トラブルを治すことが専門ではありません。肌トラブルが生じたのであれば、トラブルを治す専門である皮膚科医の診断を受けるべきであり、エステティシャンがその状態を判断してしまうと後々の責任問題となってしまいます。

 なお、こういう時にお客様を勧めることができるように、サロンの近くの皮膚科の先生を見つけておくことも重要です。いつも相談できる皮膚科の先生なら、エステの施術内容を理解して診断を下してくれますので、下手にサロン側の責任だけになる結果とはならないことが期待できます。

1-3 その③:症状が落ち着くまでエステ施術は中止する

 3つ目としては、とりあえずエステ施術は中止することです。お客様から要望があったとしても、そこはお断りしてください。
 エステを再開する場合には、お客様に医師の診断を受けてもらって問題がないことを確認してからにしましょう。
 症状が落ち着いたからといってサロンだけの判断でエステ施術を続けてしまうと、トラブルが生じていることをわかったのに施術を続けたとして、エステサロンの責任問題となってしまいます。

2 施術を続けてしまうと大変なことに

 実は、今回のケースは、実際に裁判で争われたケースを題材にしています。この裁判では、アトピー体質がエステ施術によって改善すると誤った説明を行ってエステ施術を1年半も続けた結果、症状がさらに悪化したとして、エステサロンが訴えられた事案です。

2-1 エステサロンの責任

 裁判では、エステサロンの責任として次のことがあげられています。

  1. ・エステ施術によって肌に炎症が発生する可能性のあることを説明すること
  2. ・肌トラブルを事前に抱えているお客様には、エステ施術の実施を断るか、エステ実施前に、皮膚障害を生ずることがないように適切な処置を講じること
  3. ・お客様に皮膚障害が生じたことを知った場合は、医師の診察を受けるように進めること

 このように、エステサロンにおいては、お客様への事前の説明する義務と、肌トラブルが生じた場合にはさらに悪化することを避ける義務があるとされています。

2-2 エステサロンの責任

 今回のケースでは、エステサロン側はお客様への聞き取りを行い、お客様の肌トラブルはエステ行為が原因である可能性を知りつつ、「エステを継続すれば次第に症状が改善される」と誤った説明をしてしまいました。
 そして、医師への診断を勧めないばかりか、エステ施術を継続させてしまい、結果としてお客様の肌炎症をさらに悪化させてしまったのです。
 これは、エステサロンがお客様に行うべきとする「肌トラブルが生じた場合にはさらに悪化することを避ける義務」に明確に違反しています。

2-3 違反すると高額な損害賠償の支払い

 このようなエステサロンに課されている義務に違反してしまうと、お客様には治療費、エステ施術代金、慰謝料、弁護士費用などの高額な費用を負担することになってしまいます。
 なお、この裁判では、結局450万円近い金額をエステサロンが支払う判決が出ています。

3 事前の対応

 なお、今回のケースとは少しずれますが、エステサロンが事前に行うべき対応についても説明します。

3-1 事前のカウンセリング

 まずは、エステ施術の前のカウンセリングが重要です。
 ここで、お客様の既往歴や肌トラブルをすでに持っているかしっかりと確認しておきましょう。現在、皮膚科に通院されているお客様の場合には、医師と相談して問題がないか確認してもらってください。
 そして、重要なことは、お客様から聞き取ったことを書面にすることです。そして、エステ施術の危険性を説明した「同意書」にお客様のサインや印鑑をもらっておいてください。

3-2 エステで使用する化粧品のパッチテストを行う

 事前のカウンセリングで、肌トラブルをお持ちのお客様には、エステで使用する化粧品のパッチテストを行うことも対策の一つです。オーガニック化粧品や無添加の化粧品とはいってもお客様の体質に合うかどうかは実際に試してみないとわかりません。

3-3 無理に施術を勧めない

 最後に、やはり肌トラブルのお客様には無理に施術を勧めないことも重要な対応になります。どうしても行ってほしいというお客様には、事前に説明を行い、問題が起きてもお客様の責任になることを十分理解してもらってから施術をするようにしてください。

4 まとめ

このように、お客様から施術後に肌トラブルが生じたと連絡があった場合には、

  1. ①:症状の聞き取り
  2. ②:病院への案内
  3. ③:症状が落ち着くまでエステ施術は中止する

を守るようにしてください。

 エステサロンが行うべき行為をしっかりと理解してお客様対応を行うことが、お客様とのトラブル防止には何より効果的です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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