エステサロンが保存しなければならない3つの労働関係書類とは!?

 労働基準法などにより、一定の事業場に保存しておかなければならない書類が決められています。これらの書類をきちんと作成し事業場(エステサロンの店舗など)に保存しておかないと、労働基準監督署の査察の際に是正勧告を受ける可能性があります。
 今回は、エステサロンの事業場に保存しておかなければならない書類について、解説いたします。

1 エステサロンが備え置かなければならない書類とは!?

     労働基準法では、使用者は、以下の書類を3年間保存しなければならないとされています(109条)。

  1. ・労働者名簿
  2. ・賃金台帳
  3. ・その他労働関係に関する重要な書類

 また、就業規則や労使協定(36協定など)は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、またなは備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければなりません(106条1項)。

 就業規則や36協定の作成・周知に関しては、別の記事で詳細に解説しておりますので、今回は、労働者名簿・賃金台帳・その他重要な書類について解説いたします。

2 労働者名簿とは!?

 エステサロンが作成・保存を義務図けられている書類のひとつに、労働者名簿があります。以下では、労働者名簿の記載内容と、保存の注意点を解説いたします。

2-1 労働者名簿の記載内容とは!?

 労働者名簿には、法律等により、次の事項を記載しなければならないとされています(労働基準法107条1項、労働基準法施行規則53条1項各号)。

  1. ・氏名
  2. ・生年月日
  3. ・履歴(異動や昇進)
  4. ・性別
  5. ・住所
  6. ・従事する業務の種類(※常時30人未満を使用する事業においては不要)
  7. ・雇入れの年月日
  8. ・退職・解雇の年月日及びその事由
  9. ・死亡の年月日及びその原因

 もっとも、労働者名簿に記載しなければならない労働者には、日雇労働者は含まれていません(労働基準法107条1項)。日雇労働者も全員記載しなければならないとすると、毎回日雇労働者を雇用する際に改定が必要となり、使用者の労働者名簿作成業務が非常に大変になってしまうからです。

2-2 労働者名簿の保存の注意点

 労働者名簿は、労働者の死亡日または退職・解雇日から3年間保存しなければならないとされています(労働基準法109条、労働基準法施行規則56条1号)
また、労働者名簿の内容に変更があった場合、遅滞なく訂正を行わなければならないとされています(労働基準法107条2項)。

3 賃金台帳とは!?

 エステサロンは、賃金台帳の作成・保存も義務付けられています。その記載内容と保存の注意点は、次のとおりです。

3-1 賃金台帳の記載内容とは!?

 賃金台帳には、以下の事項を記載しなければなりません(労働基準法108条、労働基準法施行規則54条1項各号)。

  1. ・氏名
  2. ・性別
  3. ・賃金計算期間(日々雇入れられる者(1ヶ月を超えて引き続き使用される者を除く)には記入不要)
  4. ・労働日数
  5. ・労働時間数
  6. ・時間外労働時間数
  7. ・休日労働時間数及び新矢労働時間数
  8. ・基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額(通貨以外のもので支払われる賃金がある場合には、その評価額)
  9. ・法令及び労使協定に基づいて、賃金の一部を控除した場合には、その額

 なお、労働基準法施行規則55条によれば、賃金台帳は厚生労働省のHPで公開されている様式に従って作成しなければならないとされています。
 厚生労働省の書式は、次のリンク先で公開されていますので、賃金台帳を作成する際には参照するようにしてください。

 厚生労働省:主要書式ダウンロードコーナー

3-2 賃金台帳の保存の注意点

 賃金台帳は、最後の記入日から3年間保存しなければなりません(規則56条2号)。つまり、退職・解雇になった労働者についても保存義務があります。
 なお、退職・解雇になった労働者から、未払の退職金請求が数年経ってからされるケースがあります。退職金の消滅時効は5年ですので(労働基準法115条)、賃金台帳は、5年間保存しておくと安心です。

 記載内容の追記は、賃金支払の都度遅滞なく行わなければなりません(労働基準法108条)。
 実際のオペレーションからしても、1年間の賃金支払の内容をまとめて記入するのは大変ですので、毎月こまめに記入するべきです。

4 出勤簿とは!?

 労働者名簿と賃金台帳のほか、エステサロンは、労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。
 そして、重要な書類として、「出勤簿」という書類があります(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿を合わせて「三帳簿」といいます)。
 出勤簿は、法律等により作成・保存を明示的に義務付けられているものではありませんが、労働基準監督署による査察で必ずチェックされる書類に含まれています。

4-1 出勤簿の記載内容とは!?

 厚生労働省の公開しているガイドライン(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)が定められています。また、使用者は、労働者の残業代を計算するために必要な残業時間数を把握しなければなりません。
 そこで、出勤簿に関しては、一般的に、以下の点を記載するべきとされています。

  1. ・始業時間、終業時間
  2. ・労働時間(日別に計算する)
  3. ・出勤日
  4. ・労働日数
  5. ・時間外労働(早出、残業)を行った日及びその時間数
     ※法内残業、法外残業の両方
  6. ・休日労働を行った日及びその時間数
  7. ・深夜労働(22時から翌5時まで)を行った日及びその時間

4-2 出勤簿の保存の注意点とは!?

 出勤簿は、「労働関係に関する重要な書類」ですので、3年間保存しなければならないとされています(労働基準法109条)。ここでいう3年間とは、最後に出勤簿が記入された日付から起算して3年となる点に注意が必要です。

5 保存していない場合にはどうなる!?

 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等の重要な書類を法定の3年間保存していない場合には、労働基準法109条違反となり、30万円以下の罰金を科せられることになります(120条1号)。
 これらの書類を保存しているかどうかは、労働基準監督署の調査によって明らかになってしまいます。また、調査は突然やってくることもあります。
 そのため、これらの書類は常日頃から作成・保存をしっかりと行っておく必要があります。

6 まとめ

 以上、エステサロンが作成・保存を義務付けられている書類について解説いたしました。
 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿は、スタッフの残業代を計算する上でも必須の書類ですので、常日頃から追記しておくこと、きちんと保存しておくことが、非常に重要です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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