スタッフを保険に加入させる義務!?

 エステサロンが開業したとき、新しくスタッフを採用したときには、各種保険の手続を行わなければなりません。これらの手続を行わないと、刑事罰などのペナルティを受ける可能性があります。今回は、エステサロンに必要な保険手続の概要を解説いたします。

1 保険制度にはどのような種類があるの?

 エステサロンは、スタッフを採用した場合、基本的には公的な保険に加入しなければなりません。公的な保険制度には、次の種類のものがあります。

保険の種類 保険の名称 担当の役所
労働保険 ①労災保険 労働基準監督署
②雇用保険 ハローワーク
社会保険 ③健康保険 年金事務所など
④厚生年金保険

 ①〜④の保険の概要は以下の通りです。

  1. ①労災保険:スタッフが業務中にケガや病気になった場合にスタッフが補償を受けるためにある保険
  2. ②雇用保険:スタッフが失業した場合や育児・介護のために休業した場合に手当を受けるための保険
  3. ③健康保険:業務外の原因によりケガや病気になった場合に給付を受けるための保険
  4. ④厚生年金保険:老齢になった場合だけでなく、後遺障害が残った場合や配偶者が死亡した場合など、広くスタッフに対し給付を行う保険

2 保険への加入義務!?

 上記のうち、事業所やスタッフが保険への加入を法律により義務付けられている場合があります。

2-1 適用事業所とは!?

 上記保険に加入することになる事業所を「適用事業所」といいます。
 適用事業所に該当するかどうかは、基本的にはスタッフの人数から判断されるのですが、複数の店舗を持つ会社では、各店舗や本社などを個別に見て適用事業所に該当するかどうかが判断されます。

 適用事業所のうち、保険に加入することを義務付けられている事業所を「強制適用事業所」といいます。

①労災保険
一人でもスタッフを雇用していると、その事業所は強制適用事業所となります。
労働者災害補償保険法3条1項で、「労働者を使用する事業を適用事業とする。」と定められており、「使用する」とは雇用契約に基づいてスタッフを働かせることをいうからです。

 

②雇用保険
原則としてスタッフを一人でも雇用している事業所は、強制適用事業所となります。
適用事業所に該当するかどうかの判断はハローワークが行うのですが、その際には、ⅰ場所的に独立していること、ⅱ経営単位としてある程度の独立性があること、ⅲ施設としての継続性があることの観点から判断されます。

 

③健康保険と④厚生年金保険

次のどちらかに該当する事業所が強制適用事業所となります。

・国、地方公共団体または法人の事業所
・一定の業種であり常時5人以上を雇用する個人事業所

なお、「一定の業種」には、サービス業としてのエステ業は含まれませんので、法人を設立せず個人事業でエステサロンを経営している方の場合は、強制加入ではなく、任意加入となります。

 

2-2 保険に加入させなければならないスタッフは!?

 各種保険に加入させなければならないスタッフは、それぞれ一定の範囲に限定されています。
 エステサロンの経営者の方は、雇っているスタッフを保険に加入させる手続を行わないといけませんので、誰が保険に加入できるかは正確に把握できるようにしておくことが重要です。

①労災保険
労災保険に加入する人は、雇用契約に基づいて働くスタッフです。そのため、個人事業主や法人の役員は、労災保険に加入することができません。もっとも、中小企業の事業主などは、特別加入という手続を行うことで、労災保険に加入することができます。

 

②雇用保険
次の2つの要件を満たすスタッフを加入させる必要があります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用見込があること

パートタイマーや契約社員でも、これらの要件を満たすスタッフは、雇用保険に加入することになります。

 

③健康保険
適用事業所で働くスタッフが加入することになります。パートタイマーやアルバイトも、基本的には1日または1週間の労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の労働者のおおむね4分の3以上あれば、健康保険に加入することになります。

 

④厚生年金保険
適用事業所で働くスタッフのうち、70歳未満の者が加入します。また、健康保険と同様に、基本的には1日または1週間の労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の労働者のおおむね4分の3以上あるパートタイマーやアルバイトも、加入することになります。

 

2-3 保険料の支払って?

 保険料は、全額事業主が負担するもの、スタッフも負担するものとに分かれています。 
 各種保険料は、スタッフに支払う給与から控除することが可能です(労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条、健康保険法167条、厚生年金保険法84条など)。

①労災保険
保険料は、全額事業主が負担します。スタッフの業務中のケガや病気の責任を負うのは、事業主であると考えられているからです。

 

②雇用保険
スタッフも保険料を負担します。平成29年4月1日から保険料率が引き下げられ、労働者は1000分の3、事業主は1000分の6の割合の保険料を負担することになりました。

 

③健康保険
保険料は、市区町村や年齢などによって細かく変わってきます。協会けんぽの平成29年9月分(10月納付分)からの保険料額表では、東京都の30歳のスタッフで報酬月額が20万円の場合、保険料率は9.91%とされます。
保険料は、事業主とスタッフが半分ずつ負担することになります。

 

④厚生年金保険
健康保険と同じ保険料額表の中で保険料率が定められています。東京都の30歳スタッフで報酬月額が20万円の場合、保険料率は18.3%となっています。この保険料も、事業主とスタッフが半分ずつ負担します。

 

3 スタッフを保険に加入させないと?

 自らの店舗が適用事業所であるのに届出をしなかったり、スタッフの保険加入手続を行わなかった場合、エステサロンの経営者には、各種のペナルティが課せられることになります。
 加入手続を期限までに行わない場合にもペナルティは発生しますので、新規に採用する前から加入手続を勉強しておくことが重要です。

①労災保険
故意に労災加入手続を行わないでいるうちに労災事故が発生した場合、事業主は、当該労災事故に基づきスタッフに給付される保険給付の全額を負担することになります。加入手続を怠った原因が故意ではなく重大な過失による場合でも、40%を負担することになります。
労災事故による補償は基本的に高額ですので、事業主が全額負担するとなると経営に大ダメージを受けます。

 

②雇用保険
届出をしない場合には、6月以下の懲役または30万円以下の罰金を科されることになります。

 

③健康保険と④厚生年金保険
加入していないことが年金事務所の調査によって発覚すると、全スタッフの保険料が過去2年間分も遡って徴収されることになります。また、加入手続は行っていても、保険料を納めていない場合には、最大14.6%の延滞金が徴収されます。さらに、正当な理由がない未加入や未納に対しては、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

 

4 まとめ

 各種保険は、スタッフの医療給付などのため、非常に重要な制度です。
 事業主としては、高額な保険料を負担するコストがかさばり、手続も複雑ですので、面倒に思われるかもしれません。
ですが、加入手続を行わなかったときのペナルティがありますので、エステサロンの経営者の方も、加入手続をしっかりと行うようにしましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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