就業規則って必要なの?

エステサロンの経営者の方は、ご自分の会社で就業規則を作成していますか?
 法律上、就業規則を作成しなければならないと定められている場合がありますので、一度確認してみてはいかがでしょうか。
 本記事では、就業規則とは何か、法律上作成を義務付けられているのはどのような場合か、及びその作成の際の注意点について解説をしていきます。就業規則の変更は別の記事でご紹介いたします。

1 就業規則とは?

そもそも就業規則とはどのようなものでしょうか。「労働契約(雇用契約)」が成立すると労働法の適用があることは以前の記事で解説しましたが、そのほかに、使用者と労働者の間の権利義務を決めるものには何があるのでしょうか。

1-1 契約関係の種類

使用者と労働者の間の権利義務等を決める法律関係には、以下の4つの種類があります。

  1. ・労働契約(雇用契約)
  2. 使用者と労働者との個別の契約のこと

  3. ・就業規則
  4. 事業場で働く労働者全員に適用されるルール

  5. ・労働協約
  6. 使用者と労働組合との間で締結された労働条件に関する合意

  7. ・法令
  8. 労働基準法、労働契約法、労働組合法などの労働法

1-2 それぞれの関係

まず、労働基準法などの法令は、使用者と労働者との間の契約関係の最低ラインを定めているものです。例えば、最低賃金法を下回る時給でアルバイトを雇っても、最低賃金法通りの時給に修正されてしまいます。
 次に、就業規則は、法令と労働協約に違反してはならないと法律で定められています(労働基準法92条1項、労働契約法13条、労働組合法16条など)。つまり、基本的には就業規則より労働協約が優先されます。
 さらに、就業規則と労働契約を比較して、労働契約の方が不利であれば、その部分の労働契約の内容は無効になり、就業規則が適用されます(労働契約法12条)。逆に労働契約の方が有利であれば、労働契約が適用されます(労働契約法7条ただし書)。

ここまでをまとめますと、
法令>労働協約>就業規則>労働契約
※労働契約の方が有利だと、労働契約>就業規則
となります。

 

2 就業規則を定めないと罰則!?

これまで、使用者と労働者の間の権利義務は、4種類の法律関係により決まると解説しました。
 皆様の中には、「就業規則は上から3番目か4番目だし、大事なものではないでしょう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、経営者の方が最も真剣に取り組まなければならないのが就業規則なのです。
 法律上、就業規則を定めないと罰則を科される場合がありますし、店舗のスタッフ全員に共通して適用するルールがある場合には、就業規則で定めることにより一律に労務管理をすることができるようになります。

2-1 就業規則を定めなければならない場合

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、法律上、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法89条)。「常時10人以上」のカウントには、正社員のみならず、契約社員やパートタイマーの人数も含みます。ですので、シフトにあまり入っていないスタッフばかりであっても、10人以上のスタッフを契約社員として雇っている場合には、就業規則を作成しなければなりません。
 これに違反して就業規則を作成しないと、30万円以下の罰金が科せられることになります(労働基準法120条1号)。

 そして、就業規則を作成しなければならない「事業場」というのは、基本的には会社ごとではなく、店舗などの単位で判断されます。
 ですから、エステサロンの各店舗でスタッフを10人以上雇っている場合には、店舗ごとに就業規則の作成が必要となります。

一方で、使用している労働者の人数が10人未満の場合には、法律上就業規則の作成が義務付けられてはいません。
 ですが、就業規則を作成することにより、統一的・画一的な労務管理ができるようになりますので、できるだけ作成することが望ましいでしょう。

2-2 就業規則を作成するときの手続

就業規則が使用者と労働者の間の契約関係に対して効力を持つためには、単に作成すればいいというわけではなく、法律で決められた手続を行わなければなりません。
 そこで、以下でその手続を解説いたします。

⑴ 就業規則の作成

就業規則に何を書かなければならないか、何を書くべきかは、法律で決まっています(労働基準法89条)。

  1. 絶対に書かなければならないこと(絶対的必要記載事項)
  2. ①始業・就業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制労働における就業時転換に関する事項

    ②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

    ③退職に関する事項(解雇の事由を含む)

     

  3. 労働者に適用するのであれば書かなければならないこと(相対的必要記載事項)
  4. ①退職手当に関する事項

    ②臨時の賃金額及び最低賃金額に関する事項

    ③労働者の食費、作業用その他の負担に関する事項

    ④安全及び衛生に関する事項

    ⑤職業訓練に関する事項

    ⑥災害補償及び業務外の疾病扶助に関する事項

    ⑦表彰及び制裁の種類・程度に関する事項

    ⑧その他当該事業場の労働者全てに適用される定めをする場合、これに関する事項

     

  5. ルールを明確にするために書くこと(任意的記載事項)
  6. ①就業規則の解釈・適用に関する事項

    ②必要的記載事項以外で法令に定められた事項を確認する事項

賃金をいくらにするか、休日をいつにするかといった労働時間に関する事項や、懲戒解雇をできる場合の要件は、就業規則に定めておかなければなりません(絶対的必要記載事項)。
 このように、就業規則に定めておかないとできないことがいくつもあるので、就業規則を軽視しないようにするべきでしょう。
 厚生労働省のHPには就業規則のモデルが公開されています。ですが、ご自分の会社で適用する就業規則を細かくアレンジするためには、弁護士や社労士などの専門家と何度も打合せすることが重要です。

⑵ 過半数組合等の意見聴取

使用者は、就業規則を作成したあと、労働者の過半数で組織する労働組合(そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数の代表者)の意見を聴取しなければなりません。その際、回答書を労働組合等に送付し、書面で意見を聴取することが多いと思います。
 エステサロンの場合、エステユニオンという合同労働組合の活動が盛んですので、事業場の労働者の過半数がエステユニオンに加入している場合、エステユニオンの意見を聴取しなければなりません。

なお、「意見を聴取する」と言っても、同意を得ることまでは不要です。過半数の代表者が「この就業規則には反対である」との意見を述べたとしても、手続上問題はありません。
 ですが、「なぜそのような反対意見が出たのか」をしっかりと聞き取り、改善点を探してより良い職場環境を作っていくという姿勢が大事だと思います。

⑶ 労働基準監督署長への届出

労働者側の意見を聴取した後は、回答書など、「意見を聴取したことがわかる資料」を添えて、就業規則を管轄の労働基準監督署長に提出します。
 労働者側が回答書を出してくれない場合には、代わりの資料を提出する必要があります。例えば、労働者の過半数代表者が決まっている場合には、その代表者に対して意見を聴取する内容のメールや内容証明郵便などにより、過半数代表者に意見を聴取したことを証明できるようにしておきましょう。

⑷ 労働者への周知

就業規則が受理されましたら、最後に、就業規則を労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条)。

具体的には

  1. ・常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること
  2. ・労働者に書面を交付すること
  3. ・磁気テープ、磁気ディスクその他これらの準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を乗じ確認できる機器を設置すること

などの方法を採らなければなりません(労働基準法施行規則52条の2)。

また、このようにして作られた就業規則が労働者と使用者との間の権利義務を発生させるためには、労働契約法7条によれば、

  1. ①就業規則の内容が合理的であること
  2. ②就業規則が労働者に周囲されていること

が必要です。

労働契約法7条の「周知」は、労働基準法106条の「周知」までの明確な行動は必要ではなく、「実質的に労働者に就業規則の内容がそられていればよい」と考えられています。
 ですので、書面を交付しなくても、会社の共有データフォルダーに入れておくなどするだけで労働契約法7条の「周知」はクリアできるので、就業規則の内容が合理的であれば、就業規則により労働者と使用者の権利義務を発生させることになります。
 もっとも、労働基準法106条の「周知」を行わない場合、前述のとおり、刑事罰を科されるおそれがありますので、書面を交付するなど手続面もきちんと実践するようにしましょう。

 

3 まとめ

以上見てきましたとおり、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、使用者は就業規則を法律上の手続に従って作成・周知する必要があります。
 就業規則の作成を専門家に依頼すると、費用がおおよそ20万円~40万円くらいかかってしまいますが、将来労働者から突然残業代請求などをされるなどのリスクを回避し快適な職場環境を作っていくには、多少の出費もやむを得ないでしょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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