美容師、エステティシャン、ネイリストから産休・育休を求められたら!?
美容室、エステサロン、ネイルサロンなどの美容業界においては、女性スタッフの割合が高く、スタッフから産休や育休を求められることが多くあることでしょう。
そのような美容業界においては、女性が一生を通して活躍できるよう産休・育休など女性が働きやすくなるような職場の環境を整えていくことが、会社を大きくしていくうえで必要不可欠だと思います。
そして、男性スタッフからも育休の申出があるかもしれません。
今回は、美容室、エステサロン、ネイルサロンなどの美容経営者の方に向けて、スタッフから産休・育休の取得を相談されたときにどうすればよいかを解説していきます。
【目次】
1 産休とは?
産休、育休という言葉はよく耳にしますが、それぞれ、取得できる人や期間などが法律で定められています。
1-1 産休とは?
法律上のルールでは、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産の予定がある女性スタッフが産休を求めた場合、経営者は、その女性スタッフを勤務させてはならないことになります。
また、出産後も8週間の間は、出産をした女性スタッフを勤務させることはできません。
このように、労働基準法に則り、女性スタッフは産休を取得することになっています。
2 育休とは?
一般に使われている育休は、法律のルールによると、「育児休業」と「育児休暇」に区分することができます。
2-1 育児休業とは?
育児休業について、性別を問わず、1歳未満の子を育てるスタッフは、経営者に申し出ることで、子が1歳になるまで育児休業を取得することができます。
その後、保育所への入所ができないなどの特別の事情がある場合には、子が1歳6か月に達するまで、育児休業の期間を延長できます。
さらに、同様の事情がある場合には、子が2歳に達するまで、育児休業の期間を延長することもできます。
これらの期間を図で表すと以下のようになります。
2-2 育児休業の申出ができるのはどんなスタッフ?
育児休業の対象は、性別問わず、正社員に限らず、パート社員、派遣社員も含まれます。
育休について規定する育児介護休業法では、後述するような労使協定が定められていない限り、社員が育休をとるための条件は定められていません。
このため、労使協定をむすんでいない経営者の方は、正社員を含むスタッフから育休をとりたいとの申出を受けた場合、そのスタッフには、育休を取得させなければならないと法律で決まっているのです。
もっとも、有期契約社員にのみ、以下の条件があります。
- 有期契約社員で育児休業の対象になる場合
- ・実質的に契約期間の定めがない契約と異ならない者
- ・過去に1年以上勤務し、子が1歳6か月になるまでに雇用契約がなくなることが明らかでない者
簡単に言うと、スタッフと毎年1年の期間で契約更新をしているが、すでに何度も契約更新がなされている場合や、スタッフの育児休業中に契約期間が満了するが、その後も継続して勤務してもらう予定の場合には、有期契約のスタッフも、育児休業の対象になります。
2-3 育児休暇とは?
育児休暇とは、法律上、子の看護休暇と呼ばれるものです。
小学校入学前の子供を育てるスタッフが、子供の予防接種や健康診断のための休暇がほしいと申し出た場合には、経営者は申出を拒否できず、スタッフに休暇を与えなければならないことになっています。
子の看護休暇は、年間5日(小学校入学前の子供が2人の場合には10日)の限度で認められ、半日での利用も可能ですので、申出を受けた場合には、スタッフに休暇を与えなければならないことになります。
3 経営者の取るべき対応について
このように、美容経営者は、スタッフから産休、育休を求められると、スタッフに勤務を求めることができなくなり、人が足りなくなるという問題が生じることになってしまいます。
他にも、美容経営者には、法律上、様々な義務が生じることになります。
3-1 産休や育休を取得させないとどうなるの?
まず、経営者側の視点からすると、採用の時に育休、産休制度があるという話をしていないから、産休、育休を認めないと言うこともできるのではないかとの考えが浮かぶと思います。
実際に、産休・育休制度があることを採用時に明言しているのは、大手企業などのほんの一部の会社にすぎないと思います。
しかし、法律のルールでは、
とされ、育児休暇についても同じ条文があります。
このため、経営者はスタッフの採用時に育休をとれないよと説明していても、スタッフから育休を求められた際は、育休を与えなければならないことになります。
経営者がこれを違反した場合には、厚生労働大臣から報告を求められ、報告をしない又は虚偽の報告をした場合には、経営者に対して20万の過料の罰則があります。
また、厚生労働大臣から是正の勧告がなされ、最悪の場合には、社名などが公表されてしまうこともあるので、注意が必要です。
3-2 産休・育休中の給与を支払う必要は?
産休・育休中の給与については、就業規則などで産休育休中を有給にするとの規定を定めていない限り、スタッフは勤務していないので、給与を支払う必要はありません。
また、経営者が支払う社会保険料も、管轄の年金事務所へと申し出ることで免除となります。
他方で、育休中のスタッフは育児休業給与制度を利用し、雇用保険から休業前の給与の67パーセントの支給が受けられることになっていますので、それで生計を立てていくことになります(雇用保険法61条の4)。
3-3 産休・育休のからの復帰を認めずに解雇などができるのか?
スタッフが産休・育休を取得し、育休が明けた後も子供に関連した休暇を取得することがあるでしょう。
経営者としては、スタッフの欠員を補うため、代わりのスタッフを雇う必要があります。
そういった必要性から、産休育休を機会に、一度会社を辞めてもらいたいという意見も決して理解できないものではありません。
しかし、法律のルールでは、育児休業については、
とされ、産休、育児休暇についても同様の定めがあります。
このため、美容経営者は、産休・育休を求めたスタッフに対して、
- ・産休、育休を求めてきたことを許可できないとして解雇すること
- ・育休の期間経過後に、子供がいて休みが多くなることを理由として解雇すること
- ・育休を取得したことを理由としてスタッフの評価をさげて、給与の引き下げること
- ・育休が理由ではないかと考えられるような配置の転換を行って給与を引き下げること
は認められません。
美容経営者がスタッフに対して、以上のようなことを行った場合には、厚生労働大臣による勧告や社名の公表などのペナルティーが科されるため、産休・育休を取得したスタッフの扱いに慎重になる必要があります。
3-4 スタッフが急にいなくなることへの対応策は?
以上のように、スタッフから産休・育休を求められて、欠員が生じてしまうのは、今の制度上、避けられないものです。
他方で、欠員をそのままにし、他の社員に負担が生じる事態も、経営を行っていくうえでは避けたいところです。
そこで、代わりのスタッフを確保するために、美容経営者が行うことができるのは、以下の3つの方法になると思います。
- ①他の店舗のスタッフから応援や異動に出てもらう。
- ②新たに派遣会社から社員の派遣を受ける
- ③アルバイトなど臨時のスタッフを期限付きで直接雇用する。
これらの中から②③の手段を選ぶ際には、経営者が厚生労働省から助成金の支給を受けられる両立支援等助成金という制度が存在します。
育児休業取得者の代替要員を確保し、 休業取得者を原職等に復帰させた中小企業事業主に下の表に従った額を支給する制度です。
支給額 | |
---|---|
支給対象労働者1人あたり | 47.5万円(60万円) |
有期労働者の場合の加算 | 9.5万円(12万円) |
※支給対象期間は5年間、支給人数は1年度当たり10人まで。
※厚生労働省の定める生産性要件も満たす場合には、かっこ内の金額になります。
- 支給の要件
- ①育児休業取得者の職場復帰前に、育児休業が終了した労働者を原職等に復帰させる旨を就業規 則等に規定すること。
- ②対象者が3ヶ月以上育児休業を取得し、事業主が休業期間中の代替要員を新たに確保すること。
- ③対象者を上記規定に基づき原職等に復帰させ、さらに6ヶ月以上継続雇用すること。
両立支援等助成金制度には、スタッフの育休取得時・職場復帰時に支給を受けられるコースなど他にも様々なコースがあります。
美容経営者の方々におかれましては、育休の申出を受けた際は、このような制度の利用も検討してみてください。
3-5 産休育休を求められる前にやっておくべきことは?
まず、産休・育休に関連して、就業規則の見直しを行う必要があります。
産休・育休に関する事項は、労働時間や休業に関するものとして、就業規則に必ず定めなければならないものです。
したがって、今の就業規則に産休、育休の定めがない場合には、就業規則を変更する必要があります。
また、美容経営者は、スタッフの半数以上が加入する労働組合やスタッフの過半数を代表する者と労使協定を定めた場合には、
以下のスタッフについて、育休を認めないことができます。
- ・雇用された期間が1年に満たないスタッフ
- ・育休の申し出があった日から、1年以内に雇用関係が終了することが明らかなスタッフ
- ・1週間に2日以下しか働かない契約のスタッフ
この労使協定をむすぶことによって、経営者は、事前に産休・育休を求めるスタッフを予想することができるようになると思います。
労働組合ってなに??と思った方は、下記をご覧ください。
4 まとめ
今回は、美容経営者の方が、スタッフから産休・育休の取得を求められたときにどうすればよいか解説してきました。
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今回の記事で重要なポイントは以下の2つです。
- ①美容経営者は、スタッフから育休産休の申出を受けた場合には、基本的に産休・育休の取得を拒否することはできない。
- ②産休・育休を申し出たことや取得したことを理由としてスタッフの不利益に扱うことは、許されない。
美容経営者の方々におかれましては、今回の記事を機会に産休・育休制度をきちんと整えて、女性が働きやすくなるような職場を会社の売りにいけるよう検討してみてください。