うつ病になったスタッフが復職するときに気をつけるべき点~うつ病の従業員が出たときの会社の対応方法③~

スタッフがうつ病になった場合、一番トラブルが起きやすいのが、実は「復職」のときなのです。
 エステサロン側としては、場合によっては、スタッフの復職を認めたくないこともあるでしょう。しかし、エステサロンとしてはあくまでスタッフの復職を支援する姿勢を持つことが重要です。

今回は、うつ病になったスタッフが復職するときにエステサロンの人事担当が気をつけるべき点について解説します。
 

1 休職期間満了時の対応には何があるの?

うつ病を理由にスタッフを休職させた場合、休職命令を出すことになりますが、就業規則で定めた休職期間が満了したとき、エステサロン側は次の対応をすることになります。

【Ⅰ】復職可能かどうかの判断
【Ⅱ】実際に復職させる
【Ⅲ】退職・解雇させる

 それでは、ここから、3つの内容を順番に見ていきましょう。

 

2 【Ⅰ】復職できるかどうかはどう判断すればいい?

復職できる状態かどうかは、主に、医師の診断書や職場でのリハビリ出勤などの方法により判断することになります。

2.1 主治医の診断書を提出させるときの注意点

休職させる際に医師の診断書の提出を必要としたので、復職させる際にも、同じように診断書の提出を求めることになります。
 通常は就業規則で、スタッフの側から休職期間満了前に主治医の診断書を出すよう定められています。なぜなら、復職できる状態かどうかを証明するのはスタッフの責任だからです。

なお、うつ病は心の病気ですので、本人の気分により症状が大きく変化します。そのため、本人が復職を望んでいる場合、主治医の診断書では「復職可能」と判断されていることがほとんどです。

 しかし、エステサロンとしては、休職前のスタッフの様子などから、スタッフが本当に復職できるのかどうか疑問を持っていることがあります。
 その場合、エステサロンの人事担当が主治医と面談をし、スタッフが本当に復職できる状態にあるのかどうかを聞き取り調査をすると効果的です。
 ただし、主治医との面談は、スタッフの病気というナイーブな個人情報をエステサロン側が取得することを意味しますので、スタッフの事前の同意を得ておくか、最低でも同席させるなどして、スタッフに無断で面談を行わないように留意してください。

2.2 産業医の診断を受けさせるときの注意点

主治医との面談をしても、エステサロンとしてはスタッフの復職への疑問が解消されない場合があります。主治医が業務内容を正確に理解していなかったり、スタッフが復職を望むあまり正直に医師に症状を申告していないことがあるからです。
 上記の場合、エステサロンとしては、産業医(エステサロンのかかりつけの医師)の診断も受けるよう指示命令するべきです。

なお、産業医の診断を受けさせることは、エステサロンによる業務命令という性質があります。
 そのため、スタッフから「復職できる状態であるのに、再度受診するよう強制された」「受診させることを繰り返して復職を認めない気だ」といった主張をされてトラブルが生じないようにするために、就業規則で産業医の診断を受けさせるとの業務命令の根拠を用意しておくべきです。
 就業規則は、具体的には「従業員の復職可能性の判断に関し、エステサロンが必要と認めた場合には、エステサロンは、当該従業員に対し、エステサロンの指定する医師の診断を受けるよう求めることができる。」などと規定しておくと、トラブルを発生させない為のリスクヘッジになります。

2.3 リハビリ出勤とは?

業務内容を理解している産業医による診断は、専門家による判断ですので、一定の信頼があります。
 そうはいっても、その診断はあくまで病院の診察室でなされるもので、うつ病になったスタッフが実際に職場に戻ったら、また症状が悪化するかもしれません。

 そのような心配があれば、エステサロンとしては、スタッフにリハビリ出勤をさせ、職場に戻っても症状が悪化しないか、どのような業務であれば行うことができる程度まで回復したかを詳しく判断することが望ましいです。

厚生労働省が作成した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によれば、リハビリ出勤にはおおよそ次のものがあります。

  1. 模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行う、図書館などで時間を過ごす。
  2. 通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
  3. 試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場に試験的に一定期間継続して出勤する。

2.4 リハビリ出勤(試し出勤)では何に注意すべきか?

リハビリ出勤では本来の業務は行いませんので、リハビリ出勤はスタッフの義務である労務の提供(仕事をする)には当たりません。
 そのため、給与や出勤時間に関する就業規則の定めはリハビリ出勤するスタッフには適用されないのです。

そこで、給与や出勤時間等に関するスタッフとのトラブルを回避するために、別途リハビリ出勤するスタッフ用の規定も明確に定めておくべきです。

具体的には、以下の要素を就業規則に定めておきましょう。

    【定めておくべき規定の具体例】

  1. 「給与」→リハビリ出勤は労務の提供ではないので、給与の支払は不要です。
  2. 「休職期間」→リハビリ出勤の期間中、通常、休職期間は中断しており、再度休職期間に入る場合には休職期間が連続していたものとみなす取扱いが多いです。
  3. 「労災」→労務提供は行わないので、労災保険法の適用はなく、リハビリ出勤中にケガをしても労災の問題にはなりません。
  4. 「リハビリ出勤期間」→長期のリハビリ出勤をさせることは、職場復帰のための訓練・復職可能性の評価というリハビリ出勤の目的に沿わないので、リハビリ出勤期間はむやみに長期にならないようにするべきです。

 

3 【Ⅱ】実際に復職させる際に気をつけるべき点

スタッフが復職できたとしても、まだうつ病が完治していない場合もあります。
 エステサロンには、スタッフの職場環境に配慮するべき法律上の義務がありますので、うつ病のため休職していたスタッフに対しては、復帰後もうつ病であることを踏まえた配慮が必要です。
例えば、いきなり元の業務に戻さず、リハビリとまではいかなくとも、軽度の業務を行わせたり、負担の軽い業務を行う部署に異動させたり、業務時間を短縮させるなどの対処が望まれます。
 また、業務内容・時間以外にも、例えば調子が悪くなったら本来の休憩時間以外であっても休憩させたり、通勤中に調子が悪くなったら急な欠勤や遅刻を認めたりといった配慮も必要です。

復職したスタッフに配慮した環境づくりをしないと、スタッフのうつ病が再び悪化してしまうおそれがあります。そうなりますと、完全な職場復帰は難しくなってしまいます。

 

4 【Ⅲ】退職・解雇させるときの注意点

休職期間満了時に、スタッフのうつ病が良くなっておらず、復職が不可能である場合には、就業規則の定めに従って、自然退職となるか、エステサロンから解雇の通知を出すことにより解雇する流れになります。
 ただし、うつ病は本人の気の持ちようが症状に直結する病気ですので、本人が復職を望んでいる場合には復職不可能との判断は容易には出せないかと思います。
 また、復職可能性がない、というエステサロンの判断が、裁判の場で誤っていたと判断された場合、エステサロンが違法な解雇をしたことになりえます。そのため、復職可能性がないとの判断を下す場合は慎重に行う必要があります。

よって、現実的には、復職可能性がないとの判断によりスタッフを自然退職・解雇させることは難しいと考えられます。

 

5 まとめ

以上、今回はうつ病により休職していたスタッフが復職する際にエステサロンの人事担当が注意すべき点を解説しました。
 うつ病のスタッフへの対応は非常に難しい問題で、人事担当の発言も細心の注意を払う必要があります。

復職を認めない前提で行動すると、うつ病のスタッフとの間でトラブルが生じやすくなります。スタッフが復職できるようエステサロンも協力することが、ほかのスタッフとの関係でもより良い職場環境の形成につながるのではないかと考えられますので、エステサロンの経営者の皆様もぜひ実践していただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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