有期労働契約の更新拒否の禁止!?~退職・解雇・雇止め⑤~

 有期労働契約で採用したスタッフとの契約更新を拒否することを「雇止め」といいます。雇止めにより、有期労働契約の労働者は労働契約を打ち切られ、無職となることになります。
雇止めには、契約更新を拒否することによって簡単に解雇と同じ状況を作ることができるという問題点があります。
そこで、平成24年の労働契約法の改正により、

  1. ・無期労働契約への転換
  2. ・法律による雇止めの制限
  3. ・有期労働契約の内容への配慮

などの規定が定められることになりました。

 今回は、これらの労働契約法の規定のうち、雇止めに関する規定を解説いたします。

1 法律による雇止めの制限

 上記で述べたとおり、雇止めにより労働者は解雇されたのと同じような状況になります。そのため、労働契約法19条により雇止めは禁止されています。
 労働契約法19条によれば、次の要件を満たす場合に雇止めが無効とされ、有期労働契約が更新されたものと扱われます。

  1. ①労働契約法19条1号または2号に該当する場合であること
  2. ②労働者が期間満了前あるいは満了直後に更新の申込をしたこと
  3. ③更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないこと(相当性)

1-1 労働契約法19条1号または2号に該当するには?

 労働契約法19条1号は、「契約の反復更新により無期労働契約と同視できる場合」と定めています。
 雇止めを禁止する趣旨が、無期労働契約の場合と比べて立場が弱く不安定な労働者を保護することにありますので、契約の反復更新により無期労働契約と同視できる場合には、もはや有期労働契約ではなく無期労働契約として扱うべきだとされています。
どのような場合に無期労働契約と同視できるのかは、様々な事情を考慮して判断されます。

 例えば、契約の名称は「有期」や「短期」とされているのに、過去に更新に関する契約書を作成したことがなかったり、あるいは一度も契約更新が拒否されていないなどの場合が考えられます。

 また、同条2号は、「労働者に更新されるとの期待が生じている場合」と定めています。
まだ契約更新が1回もされていなくても、上司の言動などにより労働者が契約更新について期待を抱いたと評価されると、19条2号の要件を満たすと判断されることになります。

1-2 労働者からの契約更新の申込は必要なの?

 労働者の中には、契約の更新を望まない労働者もいますので、労働契約法19条は、一定の期間内に労働者から契約更新の申込をすることを要件としました。
 なお、使用者の側は、この申込を拒否することはできませんので、注意が必要です。

1-3 更新拒否の相当性とは!?

 以前の記事で、使用者が労働者を解雇するには、解雇権濫用法理という非常に高いハードルを越えなければならないと解説いたしました。
 解雇は、労働者の収入減を奪い、生活に大ダメージを与えるものですので、法律上厳しく制限され、極めて例外的な場合にしか許されません。
 有期労働契約の更新拒否も、解雇と同様に、労働者に大ダメージを与えるものですので、解雇権濫用法理のように更新拒否を厳しく制限するべきだと考えられています。
 エステサロンの業務に重大な支障を生じさせていせるなどの問題の大きい労働者でない限り、更新拒否をすることは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認めらませんので、更新拒否をすることはできません。

2 雇止めの手続上のルール

 使用者が雇止めをする場合には、厚労省が定めた手続をしっかりと行うことが必要とされています。

    ◯「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年10月22日厚労省告示第357号)

  1. ①更新の有無・判断基準の明示
  2.  有期労働契約を締結する際に、雇止めがありうること、どのような場合に雇止めをすることになるかという基準を、あらかじめ労働者に明示しておかなければなりません。

  3. ②雇止めの30日前の予告
  4.  既に3回以上契約を更新した場合、あるいは労働者が1年を超えて継続勤務している場合には、使用者は、有期労働契約の期間満了30日前に、労働者に対し雇止めをすることを予告しなければなりません。

  5. ③雇止め理由の明示
  6.  労働者が雇止めの理由の証明書を請求してきた場合には、使用者は、速やかにその証明書を交付しなければなりません。

 なお、これらの手続を行ったからといって、雇止めが必ず適法になるわけではありません。雇止めが適法になるのは、あくまで労働契約法19条の要件をすべて満たす場合に限られますので、注意が必要です。

3 有期労働契約が無期労働契約になる!?

 雇止めの禁止と関連して、有期労働契約が無期労働契約を転換できるとの規定も解説いたします。
労働契約法18条は、有期労働契約の労働者が次の要件を満たすときには、その労働契約は無期の労働契約に転換すると定めています。

  1. ①同一の使用者との間で、通算で5年を超える期間契約更新が繰り返されたこと
  2. ②労働期間満了前に、労働者が無期労働契約への転換を申し込むこと

 上記の①については、最初に労働契約を締結したときから5年経った場合でも、契約をしていない期間(「空白期間」といいます。)が一定以上あるときには、「通算で5年を超える」といえないことから、①の要件を満たさないことになります。空白期間の判断は、以下のようになります。

  1. ・有期労働契約期間が1年以上の場合…空白期間は6か月以上必要
  2. ・有期労働契約期間が1年未満の場合…空白期間はその労働期間の半分以上必要

 雇止めの禁止の効果は、あくまで同じ期間の有期労働契約が更新されるものでしたが、無期労働契約への転換は、その名の通り契約期間が無期になりますので、効果は強力です。
 なお、最近では大手エステサロンのTBCが、有期労働契約のスタッフから求めがあれば原則として無期転換にするという内容の労働協約を労働組合と結んだと報じられました。これから先、大手エステサロンでは有期労働契約のスタッフに有利な施策を行っていく可能性が高まります。

4 まとめ

 エステ業界はスタッフの入れ替わりが激しい業界ですので、人事担当の方はシフトを埋めるために採用期間の調整をしやすい有期労働契約で採用したいと考えていらっしゃるかもしれません。しかし、上記のとおり、法律により雇止めが禁止される場合や、無期労働契約に転換する場合があります。
 エステサロンの経営者、人事担当の方は、有期労働契約を上手く使いこなすためには、雇止めの禁止と無期労働契約への転換を理解し、①きちんと更新手続を行う、②スタッフが更新されると期待するような言動をしない、③空白期間を無理なく取り入れるなどの工夫が求められます。

The following two tabs change content below.
弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

関連記事

運営者

ページ上部へ戻る