古くて新しいセクハラ問題について

 最近は男女平等が意識されてきたというものの、先日のM-1グランプリでも女性審査員に対して、芸人が女性軽視の発言をしたというニュースが世間を賑わしているように、男性の女性に対する偏見で問題となるケースが残念ながら発生しています。

 特に、美容業界は、エステサロンや美容師だけでなく、化粧品のメーカー企業など、他の業界よりも女性の労働人口が多い傾向にあります。経営者は男性だけど、スタッフや従業員は女性がほとんどという企業もよく見かけます。ただ、女性の社員やスタッフが多い反面、男性社員・スタッフとも軋轢が生じてしまう場面も少なくありません。
 また、セクハラとは女性への問題行為と捉えられることが一般的ですが、最近では女性から男性へのセクハラ行為も存在するとして問題視しようとしている向きもあります。

 今回は、美容業界の経営者向けに古くて新しいセクハラ問題について解説していきます。

1 問題となるセクハラ行為とは

 1990年代にセクハラ問題が提起されて、1997年に男女雇用機会均等法が改正されました。これにより、性的ないやがらせへの配慮についての記載が盛り込まれ、職場でのセクハラが法的にも問題視されるようになりました。
 まず、法律でセクハラがどのように扱われているのか見ていきましょう。

1-1 セクハラとは?

 セクハラとは一般に「相手方の望まない性的な行為・言動」というように言われています。ただ、どこからが問題となるセクハラ行為なのかは、あいまいなものです。
 法律では、男女雇用機会均等法により「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう」にすることが規定されています。

 このように、セクハラとは

  1. ①職場において行われるもの
  2. ②性的な言動が行われたこと
  3. ③労働者の意に反したこと

ということが一応の要件としてあげられます。

 つまり、受け手が「セクハラだ!」と感じた場合にはセクハラになってしまいますので、受け手がどのように感じるかということを常に配慮しなければなりません。

1-2 セクハラ行為の類型

 従業員がセクハラを拒否したり抵抗したりした場合に、労働条件に関する不利益な取り扱いをすることを「対価型セクハラ」といいます。
 具体的には、性的な関係を要求したり身体を触ったりしたが、断られたり拒否されたため、不利益な配置転換をすることがこれに該当します。また、上司が日ごろから性的な発言をしていたことに対し抗議をした従業員を不利益に扱うことも、これに含まれます。

 職場内での性的な言動のため、従業員の労働環境が害されることを「環境型セクハラ」といいます。具体的には、職場で上司が部下の身体を触ったり、性的な噂を流したりするなどの行為が原因で、従業員の労働意欲が下がるケースがこれに該当します。

1-3 女性から男性へのセクハラ

 女性から男性へのセクハラとは、最近になって問題視されてきています。特に、このケースで問題となるのが、

  1. ●女性の上司が男性従業員に好意を持って執拗に連絡を求めるケース
  2. ●男性従業員の容姿をからかうような発言(「太ってるから彼女できねえんだよ」など)

というパターンです。

 男女雇用機会均等法は、男性も女性も合理的な理由のない差別を禁止することを目的にしており、当然セクハラの対象には男性も含まれます。

2 会社側の責任

2-1 セクハラ行為者の責任

 セクハラの被害者は、行為者に対して、人格権侵害に基づく不法行為責任を追及できることになります。俗に言う「慰謝料請求」というものです。
 この慰謝料請求ですが、アメリカなどでは秘書に対して社長が無理やりキスを迫ったとして、その秘書が200億円以上の訴訟を提起したというニュースが過去にありました。日本ではさすがにそこまで高額な訴訟が提起されることはなく、裁判でも高額な慰謝料は認められにくい傾向にあります。
 ただ、セクハラによって長期間の心理的障害を負ったなどというケースやストーカーまがいのセクハラのケースになると100万円単位の請求が認められることも考えられます。

2-2 会社側の責任

 セクハラの加害者が責任を負うのは当然ですが、場合によっては会社側も責任を負う可能性があります。
 会社側は、従業員が問題なく働くことができるように職場環境を整える義務があり、セクハラ行為によってこの職場環境を整える義務を怠ったということで責任を負う可能性があります。

3 会社側の対応策

 このように、会社の経営者としては、自らがセクハラ行為を行わないことはもちろんのこと、社内でセクハラ行為が起きないように、次のような対策を講じておく必要があります。

3-1 会社の対応方針の明確化・従業員教育の徹底

 まずは、会社の立場としてセクハラ行為を許さない態度を明確化して、従業員に周知する必要があります。具体的には、就業規則などでセクハラ行為に対応できるように規定を定めて懲戒規定を整備しておくことが挙げられます。
 また、セクハラとまではいかなくとも従業員の怪しい行動を見かけるような場合には、社員教育を徹底して、未然に問題となるセクハラ行為を防ぐように意識する必要があります。

3-2 対応窓口の設置

 次に、会社としてセクハラ問題が生じたときの相談窓口を整備しなければなりません。対応の責任者や相談方法を定めておいて、被害者がいつでも相談できるように従業員にアナウンスしておくことが求められます。
 規模が大きくない会社では、相談窓口は社長やオーナーがなることが多いと思いますが、従業員の怪しい行動を見かけたら、被害者の従業員にも面談するなどして被害の拡大を防止することが必要です。

3-3 セクハラ相談を受けた時は

 実際にセクハラ行為があると相談を受けた場合ですが、ここでの重要なポイントは、思い込みにより決断しないということです。
 セクハラ行為とは、これまで見てきたように被害者の感情が重要視されがちになるので、最初は加害者の問題行動がどうしても目につきやすいです。ただ、セクハラ行為の問題の背景には、従業員同士の軋轢だったり、恋愛感情のもつれだったりと実に様々なケースがあります。
 このため、被害者の話だけではなく、加害者とされている方の話もフラットな姿勢でよく聞く必要があります。

4 まとめ

 セクハラ行為は、数十年前ほどのあからさまな問題行動はさすがに減ってきています。ただ、恋愛感情のもつれからのセクハラ行為は依然として相談になるケースがあり、今後も会社側として対応が必要になってくると思います。
 セクハラ問題は当事者同士がやりとりをすると、問題が複雑になってしまうこともあり、社内の士気低下にもかかわってくるので、上司や相談窓口など第三者を挟んで適切に解決を図るようにしてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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