身元保証契約の注意点とは!?

 エステサロンの経営者や人事担当の方は、新しくエステティシャンを正社員で採用する際に、雇用契約のほかに、身元保証契約を締結することがあります。
 この身元保証契約は、業務中のミスなどによりエステティシャンが損害賠償義務を負う場合に備えて、エステティシャンの親族などを身元保証人とし、損害を賠償してもらうために締結される契約です。
 今回は、身元保証契約の意義と、契約内容の注意点について解説いたします。

1 身元保証契約とは!?

 身元保証契約は、前述のとおり、エステティシャンがエステサロンに対して損害賠償義務を負うときに、身元保証人も責任を負うという効果を持つ契約です。通常は、入社時にエステティシャンから身元保証書を提出してもらい、身元保証人とエステサロンの間の身元保証契約を締結します。

 エステティシャンがエステサロンに対して損害賠償義務を負う原因としては、業務中のミスによりお客さんにケガをさせてしまった場合などが考えられます。
 この場合、民法上、お客さんは当該エステサロンに対して損害賠償請求権を有するほか、当該エステティシャンの使用者であるエステサロンに対しても損害賠償請求権を有することになります。
 仮にエステサロンが損害全額をお客さんに賠償した場合、エステサロンは、当該エステティシャンに対して、当該エステティシャンが公平の見地から負担するべき範囲の金額について、求償を行う権利を取得します。
 身元保証契約が締結されている場合には、エステサロンは、この求償権を行使する際に、当該エステティシャンに対して請求していくのと併せて、身元保証人に対しても同額の請求をしていくことができるようになります。
 身元保証契約は、本来的には、このような場面で効果を発揮する契約なのです。

2 身元保証契約を締結する際の注意点!?

 身元保証契約は保証契約の一種ですので、民法により契約の締結方法などの点で制限を受けています。また、「身元保証に関する法律」により、内容にも制限がかけられています。

2-1 民法による制限とは?

 民法上、保証契約は書面で締結しなければならないとされています。
 したがって、身元保証契約も書面を作成し契約を締結しなければ、法的に契約成立とは認められません。口頭だけで身元保証人になることの承諾をもらっても意味がありませんし、また、せっかく書面を作成しても「身元保証人になること」が明確に記載されていないと、契約が成立したかどうかを争われたときに、エステサロン側の言い分が認められにくくなってしまいます。

 そこで、身元保証契約を締結するときには、必ず書面(身元保証書)を作成するとともに、書面上も身元保証人が責任を負うことを明示しておくべきです。

2-2 「身元保証に関する法律」とは?

 民法上の保証契約は、貸金に関する根保証などの場合を除き、基本的には保証人は本人のどのような債務も負うと契約で定めることができます。
 しかし、身元保証契約では、「身元保証に関する法律」により、契約内容について一定の制限がされています。

  1. ①契約期間についての制限
     契約期間は、最長で5年間であること(同法1条、2条)
  2. ②通知義務
     社員が不誠実な業務をしていることなどが原因で身元保証人に責任が発生するおそれがあるときなどは、使用者は身元保証人に対して、事前にその旨を通知しなければならないこと(3条)
  3. ③身元保証人による解除
     使用者から通知を受けた身元保証人は、身元保証契約を解除することができること(4条)
  4. ④身元保証人の責任の範囲
     身元保証人が責任を負う場合でも、裁判所の判断により、使用者は損害の全額を身元保証人に対して請求できない場合があること(5条)

 身元保証契約は、「身元保証に関する法律」の上記の制限に反する内容を定めることはできません。契約書を締結するときも、これらの制限に反していないかをチェックしなければなりません。

3 身元保証書を出さないスタッフを解雇できるか!?

 社員が身元保証書を再三の督促を受けながらも提出しなかったことを理由に、社員を解雇したことが労働基準法上適法な解雇であると判示した裁判例があります(東京地判平成11年6月21日判決)。この裁判例によれば、身元保証書を期限までに提出しなかったことが、社員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反または背信行為であるとして、解雇を適法としています。
 もっとも、この事例では、使用者が銀行という規律の厳しい会社でありますし、当該社員は再三の督促を受けていたことが認定されています。ですので、どのような会社でも、同じように解雇が適法になるという判断がされるとは限りませんので、注意が必要です。

4 身元保証契約の実際上の効果とは!?

 上記のとおり、「身元保証に関する法律」の4条で、身元保証人には契約を解除する権利が認められています。
 これは、3条により、使用者が身元保証人に対して、身元保証人に責任が発生する可能性があると通知した場合に、身元保証人自身の判断で、責任を負わないようにするための選択権を与えたものです。
 しかし実際上は、身元保証人が身元保証契約を解除することはあまり多くは見られません。
 その理由としては、①身元保証人がいない場合には採用しないとしている企業が多いこと、②もともと解除する可能性の低い、社員と親族関係にある人を身元保証人に選んでいることなどが考えられますが、様々な理由があると思います。

 身元保証人に対してスタッフの代わりとして請求していくかどうかはともかく、身元保証契約には、以下のような効果があると考えられています。

  1. ・近親者である身元保証人に迷惑がかかるのを避けるために、スタッフが違法な行為などを行わないようになる
  2. ・退職勧奨などをするときに、スタッフと使用者の間の仲介役などとして機能する

 これらの実際上の効果は、エステサロンの業務を通常とおり行っていく上で非常に重要なポイントですので、身元保証契約は、重要な契約であると思われます。

5 まとめ

 身元保証書は、入社時に形式上提出するものと考えている方も多いと思いますが、通常業務を行う上でも重要な契約であるほか、損害賠償請求をするときなどに大きな意義を持っています。
 エステサロンの経営者や人事担当の方は、スタッフを採用するときには、身元保証書の提出をしてもらうことが経営上も大事であると思われます。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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