美容業界でよく耳にする「労働組合」とは!?~労働組合①~

 エステ業界では、「エステユニオン」という労働組合の活動が非常に活発で、大手エステサロンとの間でスタッフの労働条件を改善するよう交渉し、スタッフに有利な合意を成立させたというニュースが目立ちます。
 今回は、そもそも労働組合とは何か、エステユニオンはどのような活動を行っているのかについて、解説いたします。

1 労働組合とは!?

労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体

のことをいいます(労働組合法2条)。

 労働組合あるいは労働組合に加入している労働者には、憲法により、次の権利が保障されています。

  1. ①労働組合を組織して団結すること(団結権
  2. ②使用者との間で労働条件について団体で交渉すること(団体交渉権
  3. ③ストライキなどの争議行為を団体で行うこと(団体行動権

1-1 「法律上の」労働組合とは!?

 労働組合に上記3つの権利が認められるには、基本的には、法律で定められている一定の要件を満たさなければなりません。つまり、単に労働者が集まっただけでは、労働組合とは認められないのです。

 法律上の労働組合として認められるには、大まかに、次の要件を満たす必要があります(労働組合法2条、5条など)。

  1. ①労働者が主体となって組織されること
  2. ②活動目的が労働条件の向上その他労働者の経済的地位の向上であること
  3. ③構成員が複数であること、役員を持つことなど、組織としての形態を備えること
  4. ④民主的手続(多数決など)によって運営されるなど規約を備えていること

 これらの要件を満たすことで、労働組合には、様々な特典が与えられることになります。その特典については、次回の記事で詳しく解説いたします。

1-2 労働組合の種類は?

 労働組合には、特定の企業との関係でのみ活動するのか否か、構成員が労働者個人だけか否かなどにより、複数の種類があります。

  1. ①企業内組合
    特定の企業ごとに組織されるもの
  2. ②産業別・職業別組合
    産業や職種ごとに横断的に組織されるもの
  3. ③合同組合
    企業や職種に関係なく組織されるもの
  4. ④ナショナルセンター
    上記の各労働組合を全国的に取りまとめる大規模な団体

 後述のエステユニオンは、上記でいうと③合同組合に分類されると考えられます。
 これらの分類には特に法律上の意義はありませんが、マスコミへの影響力や抗議活動の規模などで、事実上の違いが見られます。

2 エステユニオンとは!?

 最近、「エステユニオン」と呼ばれる労働組合が、エステ業界の大手企業との間で交渉をし、労働者に有利な条件を飲ませるというニュースが非常に多くなってきています。
 日本には様々な労働組合がありますが、エステユニオンが、現在最も影響力のある労働組合であると言っても過言ではありません。

2-1 エステユニオンに関する主要ニュース

    ①求人広告の適正化を求める活動
     平成28年8月に、エステユニオンがエステ業界最大手のTBCと交渉をし、今後は次の内容で求人広告をする旨の合意が成立しました。

  1. ・採用人数、離職人数、育児休業の取得状況などの情報を公開する
  2. ・固定座員業代を明示し、ハローワークや民間求人媒体で求人情報を同じにする
  3. ・求人情報以下の条件で労働契約をしないなど
    ②有期雇用労働者を無期雇用契約に転換することを求める活動
     平成28年9月に、TBCとの間で、次の内容の合意を成立させました。

  1. ・有期労働者が望めば、いつでも無期労働者に転換できる
  2. ・無期転換の際労働条件の引き下げや嫌がらせを行わない
  3. ・既存労働者への制度の周知
  4. ・新規採用者をすべて無期雇用者として採用
  5.  有期雇用労働者は、エステサロンにとって貴重な人材でしたが、TBCは、全員無期雇用労働者に転換させ、スタッフの地位を安定させるようにするようです。

③時間外労働等に関する活動
 平成29年9月に、エステティックサロンさくらという小規模なエステサロンに対し、エステティシャンが時間外労働についての割増賃金が支払われていないこと、休憩を労働基準法通りに取らせていないことなどを理由に、抗議活動を行いました。
 この事件では、エステユニオンが社長に対し労働条件の改善のための交渉を求めたにもかかわらず、社長が応じなかったことから、抗議活動がヒートアップしたようです。

 

2-2 エステユニオンの活動はどういうもの?

 エステユニオンは、上記のとおり、大手や小規模を問わず、あらゆるエステサロンに対し、スタッフの労働条件の改善を求める活動を積極的に行っています。
 具体的には、まず、エステユニオンに加入したスタッフなどから、自己の勤務するエステサロンの労働条件の問題点をヒアリングし、その後、労働基準監督署に通報をしたり、直接エステサロンに対し交渉を開始したりします。
 エステユニオンから通報を受けた労働基準監督署は、自らもそのスタッフからヒアリングをするなどして事実を調査し、違法状態があると判断した場合には、エステサロンに対して是正勧告を出します。そして、エステユニオンは、「労働基準監督署が是正勧告を出した!」とマスコミなどに訴えかけることで、自らの交渉力を強化します。

 エステユニオンの活動は非常に影響力が大きく、一度報道されてしまうとエステサロンの評判は一気に低下してしまいます。
 エステサロンの経営者は、エステユニオンから交渉を求められたら、誠実にこれに応じないと、マスコミに報道され、サロンの評判を低下させてしまうことになりますので、注意しなければなりません。
 そもそも、エステユニオンから交渉を求められることがないよう、スタッフの労働条件が違法になっていないか普段から注意しておくことがベストな対策方法です。

4 まとめ

 以上、エステユニオンの活動を紹介しました。
 このように、エステ業界では、合同労働組合であるエステユニオンが積極的に活動をしており、大手だけではなく、小規模なエステサロンに対しても団体交渉を求めるなど行っています。
 エステサロンの経営者の方は、まずスタッフに対して残業代を全額支給する、休憩時間や育児休暇を適正に取得させるなどして、違法行為を行わないよう、特に慎重にならなければなりません。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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