医療広告においてこれまでの手術の実績を記載できるのか

 医療機関の広告では「症例多数!過去〇〇件以上」や「過去〇〇件以上の手術を担当」などの記載をしている表示をよく見かけます。このような過去の実績は患者側に対してのアピールにもなりますし、患者側にとっても医療機関の選択にとって重要な情報です。
 ただ、ご存知の通り、患者側を誤認させないように広告の表記にいろいろと規制があるのが医療広告の分野です。手術件数などの実績の表記は改正後の医療広告で認められるのでしょうか。
 今回は、医療機関の広告で手術実績を記載することの可否や注意点について、弁護士が解説していきます。

1 手術実績に関する広告規制について

 医療広告については、厚労省が発表している医療広告ガイドラインに沿った内容にする必要があります。このため、まずは手術実績の広告方法がどのように記載されているか解説していきます。

1-1 広告文で記載できる内容は

 このサイトでも何度も説明しているところですが、まずは広告の媒体として「限定解除」が認められるか、が重要なポイントとなります。医療広告の限定解除とは、医療広告において患者側が自ら求めて入手する情報であるか否かによって、広告で記載できる事項が大きく変わるという医療広告の考え方です。
 例えば、医療機関のホームページなどは、患者側がパソコンで検索するなどして情報を求めていますので、広告で記載できる事項は比較的広いです(広告可能事項の限定解除)。反対に、TVCMや新聞の折込広告は、患者側が情報を求めるか否かに関わらず目に触れるものなので、広告で記載できる事項は限定的です。
 広告可能事項の限定解除等を詳しく知りたい方は、医療広告の限定解除とは~これだけはおさえておきたい美容医療広告改正③~を参照して下さい。

1-2 手術実績について

 医療広告の全体像を確認してもらったところで、次は今回のテーマである「手術実績」がどのように扱われるかの説明に移ります。
 医療広告ガイドラインの説明では、手術実績は医師個人のキャリアとして表記するのか、病院やクリニック単位の実績として表記するのかによって内容が少し変わってきます。
 なぜ医師個人のキャリアなのか病院やクリニック単位の実績なのかで区別するのかは、その理由は明らかにされていません。正直言って、在籍の医師が少ない医療機関だとあまり大差がないようにも思えますが、在籍する医師の数が多い医療機関だとやはり医療機関合計の症例数は増えてくるので、患者側を誤認させないためにも違いを設ける必要もあるのだと思います。
 
 まずは、手術件数を表記しようとするのが、医師個人のキャリアなのか、病院やクリニック単位の実績なのかを注意してください。

2 医師個人のキャリアとして

 では、次に医師個人のキャリアとして表記する場合の注意点について説明していきます。

2-1 HPならOK

 医療広告ガイドラインによれば、医師個人のキャリアとして手術件数を表記できる場合は、医療機関のHPなど限定解除が認められる媒体に限られます。他に限定解除が認められる媒体としては、医療機関のメルマガ、FacebookなどのSNSもOKです。
 逆に、医師個人のキャリアとして手術件数を表記できないものとしては、限定解除が認められない媒体、例えば、新聞の折込広告や、検索サイトのバナー広告(リスティング広告)、費用負担している医療機関の検索サイトなどになります。
 そのため、広告を記載する媒体に注意してください。

2-2 記載する際の注意点

 次に、医師個人のキャリアとして手術件数を表記する場合の注意点です。

 まず、当然のことですが、手術件数など数字を表記する場合は、うその記載はせずに実際に行った件数を記載してください。

 大幅に数字をごまかす先生は私も聞いたことがありませんが、「1年で94件くらいだったけど、切りよく100件としてしまおう」などと、ちょっとくらい数字を盛ってしまうことは、まれに私も耳にします。
 人情としてはわからなくはない部分ですが、虚偽表示として指摘されてしまうので正確な数字を記載するようにしてください。正確な数字がわからなかったら少なめに表記するなどして、数字を盛るようなことにはしないように注意してください。

2-3 数字の根拠をしっかりと確認、保存

 また、数字を記載する場合の注意点として、「過去100件以上の実績」など記載する場合、この数字の根拠を確認して、保存しておいてください。ここは、医療広告ガイドラインのQ&Aにおいても

求められれば裏付けとなる根拠を示し、客観的に実証できる必要があります。

と記載されています。

 数字の根拠ですが、どのような資料を保存すればよいかまでは、医療広告ガイドラインに記載されていません。一番わかりやすいのはカルテになるかと思います。
 「過去すべてのカルテなんか保存しておいていられないよ」と思われた方もいるかもしれませんが、広告ガイドラインをしっかりと守ろうとする場合には「年間〇〇件以上」のような表記にしておく方が安全です。

3 病院・クリニック単位の実績として

 これまでは医師個人のキャリアとしての記載方法を確認してきましたが、次に、病院やクリニック単位の実績として表記する場合について説明していきます。

3-1 すべての広告媒体で認められる

 医師個人のキャリアの場合と違い、病院やクリニック単位の実績として手術件数を表記する場合、HPなどといった広告の媒体に限定されることはありません。ですので、折込広告などにも手術件数の実績を記載することが可能です。

3-2 記載する際の注意点

 次に記載上の注意点ですが、うその記載はせずに実際に行った件数を記載することや、数字の根拠を確認・保存することは、医師個人のキャリアとして表記する場合と同様です。
 さらに、医療広告ガイドラインでは

  1. ・当該件数にかかる期間を併記すること
  2. ・手術件数は、総手術件数ではなく、それぞれの手術件数を示し、1 年ごとに集計したものを複数年にわたって示すことが望ましい
  3. ・過去 30 年分のような長期間の件数であって、現在提供されている医療の内容について誤認させるおそれがあるものについては、誇大広告に該当する可能性がある。

も記載するように求められています。
 ですので、安全に行くことを考えるのであれば、1年ごとの集計を各施術内容にて記載して、過去〇年分のようなまとめて長期間の件数を記載することは避けられた方がよいと思います。
 

4 まとめ

 最後に、今回のまとめです。
 医療機関の広告で施術実績を記載する場合には

  1. ①医師個人のキャリアとして表記するのか、病院やクリニック単位の実績として表記するのかをまず確認する。
  2. ②医師個人のキャリアとして表記する場合は、医療機関のHPなど限定解除が認められる媒体に限定される(病院やクリニック単位の実績として表記する場合は、広告媒体の限定はない)
  3. ③うその記載はせずに実際に行った件数を記載することや、数字の根拠を確認・保存すること。
  4. ④病院やクリニック単位の実績として表記する場合、総手術件数を単に表記することなどは誇大広告に該当する可能性があるので注意が必要。

という点に注意してください。
 今回の記事は、医療広告ガイドラインや医療広告ガイドラインQ&Aを参考にしましたが、実際の表記で疑問点があったら、担当の保健所に確認したり、弁護士等の専門家に相談して適法な広告表記を守るようにしてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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