問題を起こした従業員を処分するには!? ~懲戒処分する為に知っておくべきこと➀~

近年、会社員が飲酒運転により事故を起こしたり、仕事でふざけている様子をSNSに投稿して炎上するなど、スタッフが問題を起こすニュースを耳にするようになり、経営者が問題を起こした従業員に対してどのように対応すべきか悩まされることが多くなってきています。

今回は、スタッフが問題を起こした場合に、エステサロンがその従業員に対し、解雇などの懲戒処分を適法に行うためにはどのようにすればいいのか、という点を解説していきます。

 

1 懲戒処分とは?

そもそも、懲戒処分とはどのような内容なのでしょうか。

1.1 懲戒処分の意義

懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反行為に対する制裁としての不利益措置をいいます。エステサロンのスタッフが問題を起こした場合に、エステサロンがそのスタッフを懲戒解雇するのも、懲戒処分の一種です。

1.2 懲戒処分の種類

一般的には、懲戒処分の種類は、次の図のように決められていることが多いです。

下にいくほど重い処分であることを示しています。

 

それぞれの懲戒処分の内容を、詳しく見ていきましょう。

  1. 戒告

戒告とは、始末書を提出させないで、口頭でスタッフに対し注意する処分のことです。
 逆に、始末書を提出させて注意する処分は、けん責といいます。

  1. 減給

減給は、スタッフの給与を減らす処分を指します。ただし、どの程度減らすことができるかは、労働基準法91条で限定されています。
 具体的には、1回の減給で減らすことができる幅は、1日の平均賃金の半額以下であり、かつ、月の賃金の合計の10分の1以下でなければなりません。

  1. 出勤停止(停職)

出勤停止(停職)は、スタッフに労務を提供させないようにする処分です。
 なお、現実には、懲戒処分としての出勤停止処分と、懲戒処分ではない出勤停止命令(重い懲戒処分をするために会社で検討している期間、スタッフを自宅待機させる場合など)もあります。

  1. 降格

降格とは、スタッフの役職を下げることであり、例えば、接客責任者や店長といった肩書を外すことが降格に当たります。

  1. 諭旨(ゆし)解雇

諭旨(ゆし)解雇は、即時に退職しない場合には懲戒解雇すると勧告して、自発的に退職させることをいいます。

  1. 懲戒解雇

懲戒解雇は、会社の命令(懲戒処分)により一方的に従業員を解雇することです。

 

2 懲戒処分を適法に行うには!?

懲戒処分は、通常はスタッフに対し不利益を与える処分ですから、裁判になるとその適法性が厳しく判断されます。
 そこで、エステサロンが懲戒処分を適法に行うためには、以下の点に注意しないといけません。

2.1 適法に懲戒処分するために必要なこと

まず、懲戒処分を行うには、懲戒処分ができることをあらかじめ就業規則で定めておかなければなりません。就業規則で根拠を定めていない場合になされた懲戒処分は無効となります。
 なお、常時10人未満の事業場では就業規則の作成が義務付けられてはいません(労働基準法89条)が、10人未満の事業場で働くスタッフに対し懲戒処分をするときにも就業規則が必要です(つまり就業規則は必要なのです)。

懲戒処分を適法に行うには、具体的には次のことが必要となります。

懲戒処分を適法に行う為の要素
就業規則で定めておく必要があること 実際に懲戒処分をするときに気をつけること
・懲戒事由を明らかにしておく
・懲戒処分の種類を決めておく
懲戒処分が相当であること

     

2.2 懲戒事由を明らかにしておく

懲戒処分をする前提として、就業規則で、懲戒処分の要件(懲戒事由)と効果(どのような懲戒処分をできるか)を定めておかなければなりません。

懲戒事由に関しては、スタッフの非違行為をある程度類型化して定めておく必要があります。しかし、スタッフによる非違行為にはさまざまなものがあるので、包括的な条項も用意しておくことが望ましいでしょう。ただし、なんでも包括条項で処理しようとすると、懲戒処分を適法に出すことができるかどうかについてスタッフとトラブルになるおそれがあります。ですので、できるだけ包括条項に頼らず、可能な範囲で具体的に懲戒処分の要件を定めておくべきです。

2.3 どのような懲戒処分をできるか

効果としては、前述の懲戒処分の種類に挙げた各懲戒処分を就業規則にきちんと盛り込んでおくことが必要です。
 しかし、就業規則上で懲戒処分の具体的な幅(例えば、「飲酒運転をしたら5日間の出勤停止にする」など)までも決めてしまうと、ケースによっては妥当な懲戒処分を行うことが難しくなってしまいます。事情によっては、軽い処分にしたり逆に重くしたりと、エステサロン側である程度処分の幅を自由に決められることが望ましいです。

そこで、懲戒処分の幅については、就業規則ではなく、エステサロンの経営側の内部基準として用意しておくにとどめるべきです。

 

3 運用面で気をつけること

就業規則であらかじめきちんと定めておくことのほかに、実際に懲戒処分を行うときには次のことに気をつけなければなりません。

3.1 やりすぎに注意!?

いくら懲戒処分の要件に該当する非違行為があり、効果を内部基準として定めておくからといって、処分の相当性を欠く懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。
 つまり、懲戒処分は、スタッフが行った非違行為に対する制裁として適切な重さの処分を選択しなければなりません。
 処分の幅、重さを会社が内部基準で決められるからといって、完全に自由に決めてよいわけではないのです。

どのような処分であれば相当といえるかについては、スタッフの非違行為の内容・程度、スタッフの役職など会社内外に与える影響、懲戒処分の種類・重さなど、あらゆる事情が考慮されて判断されます。
 ですので、エステサロンとしても、これらの事情を考慮して懲戒処分を行うべきです。

3.2 他の懲戒事例とのバランスにも気をつける

同じような非違行為をした人に対しては、基本的には同じ種類・重さの懲戒処分を行わなければなりません。これを「平等原則」といいます。
 平等原則に反する懲戒処分は、無効と判断される可能性があります。

もっとも、エステサロン側は、非違行為の内容・程度のほかにも様々な事情を考慮して懲戒処分を行うことになるので、全く同じ事情というスタッフはいないでしょう。
 ですが、様々な事情の中でも、重要な事情が似ているのであれば、基本的には同じ種類・重さの処分を選ばなければなりません。

また、過去の懲戒処分の事例も、できるだけ資料として残しておくと良いです。
 この資料を参考にすれば、平等原則に反しにくくなると考えられます。

3.3 その他の注意するべき点

これらのほかにも、懲戒処分を行うときに注意するべき点はたくさんあります。

非違行為を特定する

どの非違行為が処分の対象となったのかを特定し、処分通知書に明確に記載しなければなりません。
 このようにしないと、スタッフが反論できませんし、エステサロンとしても懲戒処分の管理やチェックをうまくできないからです。

軽い処分から段階的に始める

初めての非違行為にも関わらず、内部基準で定めてあるからといって、いきなり重い処分をするのは、前記の相当性を欠く処分として違法と判断されやすくなります。
 まずは、懲戒処分ではなく口頭で注意をし、何回も同じ非違行為が繰り返されたら懲戒処分として戒告、けん責・・・などと、段階を踏んで重くしていくべきです。

就業規則で定めた手続を実施する

就業規則で、「スタッフに対し懲戒処分を行うには、店長、副店長その他管理者による会議を行わなければならない」などと手続を就業規則で定めた場合には、その手続を行わないまました懲戒処分は違法となります。

スタッフに反論の機会を与える

スタッフによる反論の機会を就業規則で定めていなくとも、反論させないまま行った懲戒処分は、違法であると判断されやすくなります。
 また、非違行為がエステサロンの勘違いということもあるかもしれません。
 ですので、反論の機会は、原則として与えるべきだと考えられます。
 

4 さいごに

今回は、スタッフに対し懲戒処分を行うために就業規則を定める際に注意する点と、実際に懲戒処分をするときに注意する点を解説いたしました。
 就業規則でどのように定めるかは非常にセンシティブな問題ですので、できればお近くの専門家にご依頼されるのが良いかと思われます。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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