従業員に有給休暇を与えないと違法?

エステサロンの経営者の皆さまは、スタッフにきちんと有休を消化させていますか?
 「有休」には、法律上の有給休暇と法律外の有給休暇があります。法律上の有給休暇は、労働基準法39条が根拠となりますが、法律外の有給休暇は、労働基準法39条で労働者に認められる有給の日数を超える分の休暇を会社が任意に与えるもので、就業規則等が根拠となります。
 今回は、法律上の有給休暇について解説していきます。

 

1 有給休暇とは

原則として、労働者は労務を提供しないと(仕事をしないと)賃金を支払ってもらうことはできません。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。
 しかし、有給休暇を使うと、労働者は労務を提供せずとも、使用者から賃金の支払を受けることができます。

 

2 法律上の有給休暇が発生するための要件

有給休暇は、エステサロンの店舗で勤務を開始した後すぐには使うことはできません。では、法律上の有給休暇は、いつから、何日分使うことができるようになるのでしょうか。

2-1 最初の有給休暇

入社して最初の有給休暇については、労働基準法39条1項に定められています。

労働基準法39条1項
 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

全労働日というのは、労働者が労働契約上労働義務を課せられている日のことをいいます(最判平成4年2月18日)。
 また、法律で出勤割合が定められている趣旨は、欠勤率が特に高い者には有給休暇を与えないという点にあります。そのため、無効な解雇により就労できなかった日は、出勤日数に算入されることになります(最判平成25年6月6日)。

2-2 継続勤務による有給休暇

6カ月間勤務すると、法律上の有給休暇の日数が増えます。具体的にどのように増えるかについては、労働基準法39条2項に表のかたちで定められています。

6ヶ月経過日から起算した継続勤務年数 発生する有給休暇日数
1年 1日
2年 2日
3年 4日
4年 6日
5年 8日
6年以上 10日

実際には、この表の右側の日数に、労働基準法39条1項の「10日間」(初めての有給休暇の日数)が追加されます。
 ですので、発生する有給休暇の合計は、例えば、1年6ヶ月経過した場合には11年、6年6ヶ月経過した場合には20日となります。

 

3 有給休暇を取得する際の手続

これまで、法律上の有給休暇が発生する要件とその日数についてみてきました。ですが、具体的な有給休暇の日にちをいつにするかについては、別途手続が必要となります。

3-1 時季指定とは

時季指定とは、労働者の側から有給休暇を具体的にいつにするかを指定する行為のことをいいます。
 例えば、ゴールデンウィークの隙間の平日を有給休暇と指定する(時季指定する)ことなどが考えられます。
 この時季指定は労働者の権利として定められています(労働基準法39条5項本文)。しかし、これには例外があり、会社の側で有給休暇の日にちを指定することもできます。

3-2 時季指定の変更

会社は、労働者の時季指定で指定された有給休暇の日にちを、一定の場合に限り変更することができます(労働基準法39条5項但書)。
 具体的には、労働者が指定したとおりに有給休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる」ことになる場合に、時季指定変更をすることができます。

「事業の正常な運営を妨げる」場合とは、

  1. ①時季指定をした労働者の労働が、相当な単位の業務の運営に必要不可欠であること
  2. ②代替要員を確保することが困難である場合

をいいます。
 この②代替要員の確保が困難な場合の判断は、裁判所での判断も分かれるほど微妙な問題です。同じ事案の地裁と高裁・最高裁で判断が逆になった事例もあります。

 

4 計画年休

計画年休とは、有給休暇のうち5日を超える部分について、労働者から時季指定がされていなくても、会社の側が自由に有給休暇を取得させることができる制度です(労働基準法39条6項)。
 例えば、連休などのお客さんの書き入れ時にはスタッフに出勤してもらって、その前後に計画年休として有給休暇を指定することが考えられます。
 こうすることにより、エステサロンの売り上げもキープできる上、スタッフもしっかり休むことができるようになるため、スタッフの満足やモチベーションアップにもつながります。
 ただし、計画年休制度により有給休暇をサロン側が指定するには、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合には労働者の過半数を代表する者)と書面で協定を結び、有給休暇の時季を定めておく必要があります。

 

5 エステサロンが注意すべき点

有給休暇はスタッフのモチベーション維持のために有用な制度ですが、エステサロンの側としては、労働基準法39条に違反しないように注意しなければなりません。

まず、スタッフから具体的に時季を指定して有給休暇の申請があった場合には、時季変更できる場合かどうかを精査して対応する必要があります。
 もし時季変更できない場合(代替要員の確保が容易である場合など)であったのに時季指定を認めず有給休暇を与えなかったとすると、労働基準法39条違反となってしまいます。
 時季指定の変更が可能かどうかは、前述のとおり、裁判所での判断も分かれる微妙な問題です。ですので、はじめからスタッフのシフトを無理に回すのではなく、ある程度余裕を持って回すようにし、有給休暇の申請があった場合に代替要員を確保しやすいように準備しておくことが重要です。

労働基準法39条に違反すると、経営者に6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に科せられるおそれがあります(労働基準法119条1号)。
 さらに、「有給休暇をなかなか取得させてくれない店舗だ」という認識がスタッフの間に広まり、モチベーションが下がるほか、離職率が高くなるおそれもあります。

エステサロンの経営者としては、スタッフの離職はなんとしてでも避けたいところでしょうから、有給休暇の指定がされたら、真摯に対応する必要があります。

 

6 まとめ

法律上の有給休暇は、個別の労働契約や就業規則で定めていなくても労働者が行使できる権利です。ですので、もしご自身のサロンで有給休暇を取得しているスタッフがいない場合には、スタッフらに説明をし、有給休暇を取得できるようにする環境を作るべきです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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