通勤災害とは!?

 一般に「労災」といえば、業務中のケガ、業務が原因の病気などをいいます。しかしそれ以外に、通勤途中でのケガ等も、労災の一種である「通勤災害」と認定される場合があります。今回は、「通勤災害」と認められる通勤について、解説していきます。

1 どのような場合に「通勤災害」と認定されるの!?

 通勤災害と認定されるには、「通勤」の途中に生じたケガ、病気であることが必要です。
 では、通勤災害と認定されるための「通勤」とは、どのようなものをいうのでしょうか。少しでも寄り道したら、「通勤」には当たらなくなってしまうのでしょうか。

1-1 労災認定される「通勤」とは!?

 労働者災害補償保険法7条2項によれば、労災認定される「通勤」かどうかは、次のフローチャートのとおりに考えられることになっています。

 上記のフローチャートのとおり、まず、その移動が就業に関するものであるかどうかが分かれ目になります。
 次に、その移動が、どこからどこまでの移動であるかが問題となります。
 具体的には、①住居と就業場所との往復、②就業場所から他の就業場所への移動、③①の往復に先行または後続する住居間の移動でない場合、「通勤」とは認められません。
 さらに、これら①から③までの移動に該当する場合でも、その経路および方法が合理的でなければなりません。
 最後に、移動そのものが業務である場合には、その途中でのケガ等は通勤災害ではなく業務災害と扱われます。

1-2 合理的な経路および方法での通勤とは!?

 上記のフローチャートのうち、通勤災害認定に際し最も重要なのは「合理的な経路および方法」かどうかという点です。
 スタッフが通勤途中に寄り道をした途中でケガ等を負った場合でも、その寄り道が「合理的な経路および方法」であるときには、補償を受けられる通勤途中でのケガ等(通勤災害)であると認められるのです。

 「合理的な経路」とは、一般的な労働者が通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路

となります。
 
 通常の企業やエステサロンでも、通勤手当の支給との関係では通勤定期券の値段が最も安い経路や通勤時間が最も短い経路が通勤経路だと扱われます。しかし、通勤災害との関係では、最も安い経路に限定されることはありません。一般的な労働者が用いるものと認められる経路であれば、「合理的な経路」といえます。
 また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が車庫や駐車場を経由する経路も、通勤のためにやむを得ずとる経路といえますので、「合理的な経路」にあたります。

 ただし、著しい遠回りをする場合には、一般的な労働者はその経路をとらないですので、「合理的な経路」にはあたらないことになります。どの程度の寄り道や遠回りであれば「合理的な経路」と認められるかについては、厚生労働省が基準を定めていますので、後ほどご紹介いたします。

 「合理的な方法」とは、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合のほか、自動車や自転車を利用する場合、自宅からずっと徒歩で通勤する場合など、通常考えられる通勤の手段のこと

をいいます。
 普段は電車を利用しているのに、たまたま自転車で通勤した日にケガをした場合でも、自転車での通勤は「合理的な方法」ですので、著しい遠回りをしたなど「合理的な経路」から外れていないかぎり、「通勤災害」として労災認定されることになります。

1-3 どれくらいの寄り道なら「通勤」と認められる!?

 上記のフローチャートでの要件をすべて満たす場合でも、通勤の途中で「逸脱」や「中断」があるときには、通勤災害とは認められないことになります。

 通勤災害制度は、就業場所と住居との往復に関連する移動の途中で生じたケガ等を補償する制度ですので、就業や通勤に関係のない移動は「通勤」とは認められません。この、就業に関係のない移動のことを「逸脱」といいます。
 また、経路からは外れていなくても、途中で就業や通勤と関係のない行為を行うことを「中断」といいます。例えば、地元の駅前で業務に関係のないビラ配りをすることなどが考えられます。

 通勤の途中で「逸脱」や「中断」があると、その後就業場所に向かうなどしても、その「逸脱」や「中断」の間と、その後の移動は「通勤」とは認められません。
 ですが、「中断」や「逸脱」が

  1. ①日常生活上必要な行為
  2. ②厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うため
  3. ③最小限度のもの
  4. のすべての要件を満たすものである場合

には、その後の就業場所などへの移動は「通勤」であると扱われます(労働者災害補償保険法7条3項)。

 そして、上記②に関して、厚生労働省令である労働者災害補償保険法施行規則8条は、次のとおり定めています。

労働者災害補償保険法施行規則8条
 法7条3項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。
1号 日用品の購入その他これに準ずる行為
2号 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
3号 選挙権の行使その他これに準ずる行為
4号 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
5号 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

 これら労働者災害補償保険法施行規則8条の各号に該当する場合には、その寄り道は「逸脱」や「中断」にはあたらないので、フローチャートの要件をすべて満たすときには、「通勤災害」として補償を受けることになります。

2 保育園に寄って通勤する場合は!?

 エステサロンのスタッフは女性が多く、よく通勤途中にお子さんを保育園等に預けてから出勤している人もいます。この場合も、保育園等の位置関係から、保育園等に寄ることが合理的な経路であるかが判断されます。

 厚生労働省の通達によれば、

他に子どもを監護する者がいない共稼労働者が託児所、親戚等に預けるためにとる経路は、合理的な経路である

としています(平成27年3月31日基発第21号)。もっとも、あまりに遠くの保育園等への送迎では、「合理的な経路」とは認められません。

3 まとめ

 経営者としては、当該スタッフの自宅、通勤途中に寄る保育園、店舗の位置関係を把握し、保育園にお子さんを預けてから出勤することが「合理的な経路」かを検討しておくべきです。
 もし、そのような経路での出勤だと通勤災害として補償を受けられない可能性があると考えられる場合には、前もってスタッフに対し通勤災害に当たらないとの説明もしておくと、いざ交通事故にあったときなどに労災該当性のトラブルを回避しやすくなります。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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