法律で禁止されている解雇理由!?~退職・解雇・雇止め④~

 解雇は、法令により解雇を禁止されている時期があるほかにも、あることを理由に解雇することが禁止されています。エステサロンの経営者の方も、どのような理由による解雇が法令で禁止されているかを確認しておくことが重要です。
今回は、この法律により禁止されている解雇の理由について、解説します。

1 差別的・報復的な解雇の禁止

 エステサロンのスタッフをはじめ、労働者は使用者から賃金をもらい、生活の糧としています。そのため、解雇により労働者が賃金を得られなくなることは、労働者の生活にとって大打撃となります。
 特に、差別的・報復的な理由による解雇は、非常に不公平・不相当な理由で労働者の生活に大打撃を与えるものですので、法令により禁止されています。
以下では、エステサロンでスタッフを解雇するときに想定される解雇理由が法令により禁止されているかどうかについて解説していきます。

2 婚姻・妊娠・出産関係

 スタッフが婚姻・妊娠・出産したことなどを理由にスタッフを解雇することは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称「男女雇用機会均等法」)9条3項で禁止されています。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項
 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 厚生労働省令である男女雇用機会均等法施行規則では、妊娠したため軽い作業に転換して欲しいと事業主に請求したことや、仕事の効率が低下したことなどが具体例として挙げられています。

 また、スタッフが妊娠や出産したことに関し事業主とトラブルになったとして、都道府県労働局長に援助を求めたことを理由とする解雇も禁止されています(同法17条、9条、11条の2第1項)。
妊娠の検診を受けるため、仕事を抜けたり休んだりすることを理由とする解雇も禁止されています(同法12条、13条)。

 最近では、ニュースでも「マタハラ」がよく取り上げられていますが、上記の男女雇用機会均等法の規定は、妊娠等を理由とする解雇やその他の不利益な取扱いを禁止するものです。
 エステサロンの経営者の方は、スタッフが妊娠などした場合には、シフトに支障が出たとしても、報復的に解雇するなど不利益な取扱いはできませんので、注意が必要です。

3 その他男女雇用機会均等法で禁止される解雇理由

 婚姻・妊娠・出産などの性差別のほかにも、スタッフがエステサロンでセクハラを受けたと都道府県労働局長に申告したことを理由とする解雇が禁止されています(男女雇用機会均等法11条1項)。

 また、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(通称「育児介護休業法」)に基づき育児休業や介護休業の申し出をしたり実際に休業したことを理由とする解雇も禁止されています(同法10条、16条)その趣旨は、スタッフが育児や介護のために休業することを理由に解雇することはスタッフにとって酷であるため、これらを理由とする解雇を禁止し、スタッフには育児や介護に安心して専念してもらう点にあります。

 男女雇用機会均等法により、解雇理由とすることを禁止されているものは、婚姻・妊娠・出産等が女性にしかできないことであり、それらを理由に解雇できるとすると男女差別につながるという思想もあります。エステサロンのスタッフは女性が多いので、上記の理由以外にも男女差別になるとして禁止されている解雇理由がないか、経営者の方は慎重に検討することが必要です。

4 労働組合への加入等

 労働組合法は、労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入したことなどを理由とする解雇を禁止しています(労働組合法7条1号)。また、労働者が労働委員会に不当労働行為の救済申立て等をすることを理由とする解雇も禁止しています(同条4号)。

 歴史的には、使用者と労働者の間には力関係の大きな差があり、労働者は自己の権利を使用者に十分に主張できないことが非常に多くありました。
 労働組合は、そのような力関係の差を解消し、労使が対等の立場で交渉できるようにするために組織される団体であり、労働者の権利を実現する上で非常に重要な存在です。
 そこで、労働者の権利を守るために、使用者は、労働者が労働組合に加入したことなどを理由とする解雇を禁止されているのです。

 エステ業界では、様々なエステサロンのスタッフが加入している「エステユニオン」という労働組合の活動が非常に活発です。業界大手のエステサロンも、エステユニオンとの交渉を行っているとのニュースもよく見かけます。
 エステサロンの経営者の方は、スタッフがエステユニオンに加入したからといって、そのことを理由にスタッフを解雇することはできないので、注意が必要です。

5 労基法違反等の事実の申告

 労働者は、自らの職場に労働基準法違反がある場合には、行政官庁や労働基準監督署に申告することができます(労働基準法104条1項)。労働基準法違反の事実としては、就業規則の周知がされていないこと、未払の残業代があることなど様々なものが挙げられます。
 そして、使用者は、スタッフがこれらの申告をしたことを理由にそのスタッフを解雇することはできません。そのことを理由に解雇できるとすると、スタッフは労働基準法違反の事実を申告できなくなり、結果として労働基準法違反状態が蔓延してしまうことになるからです。

6 まとめ

 以上のとおり、スタッフに対する差別的・報復的な解雇は禁止されています。
 禁止されている解雇理由で解雇した場合には、解雇は無効と判断され、未払賃金の支払を請求されるおそれもあります。
 エステサロンの経営者の方は、解雇理由について事前に慎重に検討することが非常に重要です。特に女性スタッフの解雇理由は、性差別にならないよう特に注意が必要です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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