うつ病で休職中の従業員に対する注意点は? ~うつ病の従業員が出たときの会社の対応方法②~

最近では、うつ病になるスタッフが多く、対応に悩まれているエステサロンの人事担当の方も多いと思います。前回の記事では、スタッフをうつ病を理由に休職させるまでの注意点について解説いたしました。

今回は、スタッフの休職期間中にエステサロン側が注意するべき点について解説していきます。

1 従業員がうつ病になった場合の流れ

以下では、療養期間中にエステサロン側が注意すべき点をみていきましょう。

 

2 うつ病になったスタッフにお金を支払うべき?

従業員がうつ病になった場合、エステサロンはスタッフに対し給与を支払わなければならないのでしょうか。また、給与以外にスタッフに対して支払うべき金銭はあるのでしょうか。

まずはこれらの点についてみていきます。なお、今回の記事でも、スタッフのうつ病の原因が業務以外にあること(労災でないこと)を前提に解説いたします。

2.1 給与は支払わなくてよい?

スタッフの労働条件に関する労働契約(雇用契約)、労働協約、就業規則では、スタッフの賃金は「月給〇〇円」と決められている場合が多いです。そのため、スタッフが休職している間の賃金も支払わなければならないと思う経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、労働者に支払うべき賃金に関しては、「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。つまり、スタッフが実際に労務を提供しないのであれば(仕事をしないのであれば)、その分は賃金を支払う必要はないのです。

したがいまして、スタッフが休職している期間の賃金は、法律上、支払う必要がありません。

2.2 賃金以外で、会社からの給付は必要?

もっとも、休職している間の収入が途絶えることによって、スタッフの生活が成り立たなくなるおそれもあります。そのため、サロンによっては、休職期間中のスタッフに対して、賃金ではなく「休職手当を支給する」と就業規則で定めていることもあります。

エステサロンの就業規則で一定の場合には休職手当を支給すると定めている場合で、かつ、休職手当を支給するための就業規則上の要件が満たされている場合には、休職手当を支給する義務が発生します。
 また、休職手当を支給するのであれば、具体的にいくらの休職手当をいつどのような方法で支給するかといった点について、就業規則で明示しておき、スタッフとの紛争が生じないようにしておくことが望ましいです。

2.3 健康保険組合などからの給付はあるの?

スタッフがうつ病になってしまった場合には、健康保険組合や健康保険協会から「傷病手当金」が支給されます。

その支給を受けるための要件は次のとおりです。

  1. ①業務に起因するうつ病であること(労災でないこと)
  2. ②うつ病の療養のため労務不能であること
  3. ③4日以上仕事を休んでいること
  4. ④給与の支払がないこと

 また、1日当たりの支給額は、次のとおりです。

  1. 【支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)

傷病手当金の申請などの手続については、健康保険組合のHPで詳しく案内されています。スタッフの重要な権利に関する手続ですので、不明点は健康保険組合に問い合わせることが望ましいかと思います。

2.4 傷病手当金の受取人をエステサロンに指定することができる!?

スタッフが休職している期間についても、スタッフは退職したわけではないので、エステサロンはそのスタッフの分の社会保険料を納める必要があります。

通常ですと、スタッフに支払う賃金の中から、スタッフが負担するべき社会保険料をサロンが事前に控除して徴収していると思われます。では、休職しているスタッフが負担するべき社会保険料を徴収するにはどうすればよいのでしょうか。

実は、傷病手当金の受取人をエステサロンに指定することができるのです。書類への詳しい記入方法等については、健康保険組合や健康保険協会のホームページや電話等で確認することが可能です。(全国健康保険協会HP

受取人をエステサロンにした場合、受け取った傷病手当金からスタッフ負担分の社会保険料を控除して、残りをスタッフに支給することになります。こうすることによって、社会保険料のスタッフ負担分の徴収をしっかり行うことができます。

 

3 休職中のスタッフと連絡を取り合うべきか?

スタッフがうつ病で休職した場合、エステサロンとしては、なかなかスタッフに連絡をするのは勇気がいると思います。ですが、できるだけスタッフと連絡を取り合うことが望ましいと思われます。

3.1 療養専念義務とは

そもそも、スタッフは病気になって仕事を休んでいるのですから、スタッフはまず第一にうつ病を治すべく療養に専念する義務があると考えられます。これを療養専念義務といいます。
 休職しているスタッフは、休職期間中は、うつ病を治療することに専念しなければならないので、治療に関係のない行動は控えるべきですし、治療に逆効果な行動はしてはなりません。

3.2 休職期間中のスタッフが遊んでばかりいたら

スタッフのTwitterやFacebook、Instagramなどでスタッフが療養に専念せずに遊んでいることを発見した場合、どう対応すればいいのでしょうか。
 スタッフは前述のとおり療養専念義務を負っていますので、遊んでばかりいる場合にはその義務に違反することになります。しかし、うつ病の場合、遊ぶことが気分転換になり療養につながる側面もあります。

スタッフのそのような行動を発見したら、スタッフに注意をするより、まずは医師に相談し、スタッフの行動が療養につながるかどうかの意見をもらいましょう。もし医師が「療養につながらない」と判断した場合には、スタッフに直接注意をし、それでも問題行動がおさまらない場合には業務命令のかたちで自宅療養を命じることになるでしょう。

休職期間中のスタッフが遊んでいるのか把握するためにも、人事担当者は1ヶ月おきくらいでスタッフに連絡をするべきです。

3.3 スタッフの復職の準備として

休職期間中のスタッフと連絡を取り合うことによって、スタッフが復職する際にどのようなことに不安を感じているのかを把握することもできます。特にうつ病になってしまったスタッフは、自分のことに自信を持てず、復職したとしても従前の業務を行うことができるかどうか非常に不安に感じていることが多いです。
 ですので、人事担当者はスタッフと連絡を取り合うことによって、スタッフがどのような点に不安を感じているかを聞き出し、スタッフのスムーズな職場復帰を手助けするべきだといえます。

 

4 まとめ

今回は、スタッフがうつ病を理由に休職している期間中にエステサロンとして注意するべき点について解説いたしました。
 休職しているスタッフは、自分がうつ病になって会社を休んでいることにショックを受けていることが多いです。ですので、人事担当者も、傷病手当金の申請に協力するなど、スタッフに対し温かい対応を心掛けるようにすることが重要です。

次回は、休職期間が終了するときにエステサロンが注意するべき点について解説いたします。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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