スタッフのSNSの炎上を理由に懲戒処分は可能? ~懲戒処分する為に知っておくべきこと②~

前回の記事では、スタッフを懲戒処分するときには、就業規則に明確に根拠を規定しておくこと、懲戒処分の運用は相当であることに注意すべきという点を説明しました。

今回は、よく問題となる、スタッフのSNSの利用を理由に懲戒処分をするときに、具体的にどのようなことに留意すべきかについて解説していきます。

1 SNSでの「炎上」で懲戒処分!?

「炎上」とは、SNSでの発言が問題であるとして、インターネットの内外からその本人や勤務先などに批判が殺到する現象をいいます。
 最近では、「バカッター」という言葉が流行するように、職場でふざけている様子をTwitterなどにアップしたり、顧客である有名人の個人情報を投稿したりするなど、スタッフによるSNSでの発言が炎上するケースが多く見られます。
 一方で、エステサロンに関して、大きく炎上したケースは確認できておりませんが、エステサロンとしてはSNSの利用についての理解や対策をしておく必要があるでしょう。

1.1 スタッフの問題発言とは?

 「炎上」する問題発言にも、いくつか種類があります。

  1. ・職場でふざけている様子を画像や動画でアップロードすること
  2. ・お店の悪口を言うこと
  3. ・過激な思想や発言をすること

 このうち、スタッフがSNSで店舗の悪口を言っていた場合の中でも、本当に上司などの悪口を言っているパターンと、店舗が違法な行為をしているのを公表するパターンがあります。
 スタッフがSNSで店舗の違法行為を公表することは、一定の場合には「公益通報者保護法」により保護されるので、これに対し店舗側が懲戒処分をすることはできません(公益通報者保護法3条、4条、5条)。
 そのため、スタッフのSNSでの発言が、公益通報にあたるかどうかは慎重に判断する必要があります。

1.2 懲戒処分をするときの注意点は?

 スタッフによる勤務時間外でのSNSの利用は、あくまでエステサロンの指揮監督が届かない私生活での行動です。したがいまして、これに対し懲戒処分を行うには、後述のようにエステサロンの社会的評価に対する悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合であることが必要です。

 エステサロンのスタッフが顧客の個人情報を流出させたり、顧客の悪口を投稿した場合にも、どのような個人情報を流出させたのか、どのような悪口を投稿したのかなどにより企業の社会的評価にどのような悪影響があるかをきちんと見極めることが重要です。

 なお、他の業種で炎上したケースでは、ほとんどが懲戒処分がなされています。
 特に、飲食店など食品を扱う業種や、ホテルや空港など顧客のプライバシー保護への期待が高い業種などでは、厳しい処分が下されることが多いです。

2 私生活上の非行とは?

 私生活上の非行とは、勤務時間外の私生活で、スタッフが会社の社会的評価を損なわせる言動をすることをいいます。
 多くの会社では、「会社の名誉、信用をき損する行為をしたとき」や「犯罪行為を行ったとき」を懲戒事由として定めています。
 このように就業規則で定めておけば、スタッフの私生活上の言動によりエステサロンの社会的評価をき損した場合、エステサロンはそのスタッフに対し懲戒処分をすることができます。

2.1 具体的にはどう考えればいいの?

 基本的に、スタッフには勤務時間外の私生活では自由に行動できる権利(表現の自由、プライバシー権など)があります。
そのため、スタッフが私生活で問題を起こしたからといって、すぐに「会社の名誉をき損した」として形式的に懲戒事由に該当するわけではありません。

 最高裁も、次のように、懲戒事由の該当性は様々な事情を考慮して厳格に判断すると判示しました。

「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」(最判昭和49年3月15日)

2.2 スタッフがSNSで問題発言をしたらどうすればいい?

 まずはエステサロンとしてコメントを発表したり、問題発言の削除請求をしたりするなど、外部への対応を急ぐべきです。
 その間、問題発言をしたスタッフに懲戒処分が決まるまで自宅待機命令を出したり、速やかに懲戒処分をしてその旨を公表するなどしましょう。

 スタッフへの懲戒処分をどうするかについては、スタッフがどのような問題発言をしたのかによりますが、その発言によってエステサロンの社会的評価がき損されるかどうかを細かく検討しましょう。
 特に、その問題発言がエステサロンに対する業務妨害になる場合(真実とは異なるのに「スタッフがお客様に常習的にセクハラをしている」と発言する場合など)には、厳しい処分が妥当であると考えられます。

2.3 スタッフの発言が炎上するのを防ぐには?

 一度炎上してしまうと、発言をアップロードした瞬間に第三者によって複製される場合が多い為、インターネット上から完全に問題発言を消すことは非常に困難です。
 その結果、エステサロンの社会的評価は下がり続けることになってしまいます。
 そうならないためには、事前の予防策が必要不可欠です。

 たとえば、エステサロンでの新人研修において、必ずSNSの利用に関する注意点を周知させたり、朝礼やスタッフ会議の場で注意を定期的に呼びかけるなどすると効果的だと考えられます。

3 さいごに

 エステサロンとしては、スタッフのSNS利用のすべてを監視できるわけではありません。現実的に難しいですし、スタッフのプライバシーの問題もあります。
 ですが、エステサロンの社会的評価が損なわれると、回復するのは困難ですので、事前の予防と事後の火消しが非常に重要です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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