女性スタッフだけの採用は男女差別?

最近は男性でもネイルケアをしたり、エステに通うなどがメンズエステサロンが少しずつ一般化しているように感じます。ただ、そうはいっても依然として、美容関連のお客さんは女性が多いのは変わりないと思います。女性のお客様を相手にするお店では女性のスタッフを多く採用したいと考えるのが普通でしょう。

女性のお客様専用のサロンの人事担当の方たちは、女性スタッフだけを採用することが性差別になるかどうか、不安に思ったことはありませんか?その答えは、女性のお客様を専門にする店舗では、「基本的には問題ない」です。

これからその解説をしていきます。

 

1 性差別とは

そもそも、なぜ性差別は許されないのでしょうか。

1-1 性差別禁止の根拠

まず、すべての法律の基本原則を定めた憲法の第14条1項には、次のように定められています。

憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

つまり、生活の中のあらゆる場面において、人種や性別を理由として差別、つまり「合理的な理由なく異なる取扱いをすること」が禁止されています。

また、労働法の一つである「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(通称「雇用機会均等法」)の第5条から第7条でも、性差別は禁止されています。

1-2 性差別の問題が生じる類型・場面

どのような場合が性差別に当たるか、すなわち合理的な理由のない異なる取扱いであるかについては、個別の場面ごとに判断しなければなりません。

雇用機会均等法5条の具体例は、厚生労働大臣が定めた「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年10月11日厚生労働省告示第614号)」(以下では「指針」といいます。)で説明されています。

  1. 「指針」での性差別の類型
  2. ①募集または採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること
  3. ②募集または採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること
  4. ③採用選考において、能力および資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること
  5. ④募集または採用に当たって男女のいずれかを優先すること
  6. ⑤求人の内容の説明等募集または採用に係る情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること

また、雇用機会均等法6条では、採用した後に、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種雇用形態の変更、退職の勧奨、定年・解雇、労働契約の更新の際に性別を理由として男女で異なる取扱いをすることを禁止しています。

さらに、少し難しいですが、雇用機会均等法7条では、男女を異なる取扱いをすることの理由が性別にあるわけではないが、結果として性差別と同じ状況になってしまうことも禁止されています。例えば「指針」では、身長・体重で差を設けたり、総合職・一般職といったコース別採用をするときに男女で差を設けること(総合職は転勤できる男性だけにするなど)が禁止されています。

1-3 性差別にならない場合

一方で、「指針」では、次の職務に従事する労働者については、性差別にならないとされています。

  1. 性差別についての雇用機会均等法の適用除外
  2. ①芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかにのみに従事させることが必要である職務
  3. ②守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務
  4. ③①及び②に掲げるもののほか、宗教上、風紀上、スポーツにおける協議の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについてこれらと同程度の必要性があると認められる職務

会社の業務が上記の①から③の適用除外にあたるか疑問に思った場合、お近くの労働局雇用均等室にお問い合わせすることをお勧めします。

また、既に男女格差が生じており、これを解消するために男女で異なる取扱いをする場合にも、男女差別の問題は生じません。この解消手段として男女で異なる取扱いをすることができるかどうかも、労働局に問い合わせて職場の男女比率などを教えれば、回答してくれます。

 

2 新規採用するにあたっての注意点

これまで採用時の男女問題の基本的考え方をご説明しましたので、以下スタッフを新規採用するにあたっての具体的注意点をご説明します。

2-1 募集時

まず、募集広告を出す職務が上記の適用除外の①から③のどれかであれば、「男性限定」「女性限定」といった募集広告を出すことが許されます。また、男女のいずれか一方の比率が極端に少ない場合にも、同様の募集広告を出すことができます。

しかし、これらの例外的な場合を除き、基本的に「女性限定」「男性限定」といった募集広告を出すことはできません(上記類型①)。

また、募集広告の中で、「男性優遇」「女性なら男性よりも稼げる」といった文句を出すこともできません(上記類型②)。

さらに、本当は女性だけを採用したいが性差別の問題が生じてしまうから、形式上は男女両方を採用するように募集広告を出したが、男性からの応募は無視し女性にだけ面接日時の通知を送ることも禁止されています(上記類型⑤)。

ですので、募集広告を出すときには、「女性限定」「女性優遇」などの文句を記載しないように注意するべきです。

2-2 採用決定時

ここでも、例外的に許される場合や、男女で異なる取扱いをすることに合理的な理由がある場合を除いて、基本的に男女で異なる取扱いは禁止されています。

例えば、応募人数が募集定員に足りない場合にだけ男性を採用すること(上記類型④)や、総合職は男性のみ、一般職は女性のみと分けること(上記類型①、雇用機会均等法7条)は禁止されています。採用時には、性別ではなく、能力に応じて採否を決定するようにしましょう。また、不採用通知を送る場合には、性別が理由であるとは絶対に書いてしまわないように注意しましょう。

一方で、女性のお客様を専門とする店舗で、お客様の身体に直接的な接触をすることをメインのサービスとする仕事について新規採用するときは、セクハラにならないようにする必要がありますので、女性スタッフを優先的に採用することが許されることもあります。

ただし、非常に微妙な問題ですので、労働局に業務の内容を細かく説明し、女性スタッフのみの採用が問題ないかを確認するようにしましょう。

2-3 採用した後

例えば、部長職以上に昇進できるのは男性のみと内部で定めたり、社宅に入れるのは男性のみとしたりすることは、雇用機会均等法6条で禁止されています。

ですが、出産・育児のために休暇・休業させるときなどは、一定の場合に女性を優遇することが別の法律で認められています(育児介護休業法など)。

 

3 その他の注意点

男女差別以外にも、採用の際に差別にならないよう気を付ける点がたくさんあります。

代表的なものとしては、

  • 応募者の戸籍、生活環境や家庭環境、宗教観や政治観で採用・不採用を決めること
  • 年齢制限を合理的な理由なく設けること

などが挙げられます。

差別をしてしまいますと差別を受けた人から慰謝料請求をされてしまいますので、これらのことを理由に異なる取扱いをする際には、合理的な理由があるか念入りに確認すべきです。

 

4 まとめ

性別を理由に異なる取扱いをしたことが「性差別」に当たるとされた場合、雇用機会均等法第5条により、会社は差別を受けた人から慰謝料請求などをされる可能性があります。また、「そのような差別をする会社」という噂が広まり、世間からの信用が低下するおそれもあります。

同業他社が多い業界で世間やお客さんからの信用が下がることは死活問題ですので、「差別をされた」という噂を広められないように注意するべきです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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